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見えない要素をかたちにする設計哲学/MHAA建築設計事務所

2025.11.28 | レポート

上/「盤桓(目黒の集合住宅)」。旧家の自然を継承し、四季の風景と調和する8戸の集合住宅で、光や風、緑と関係を結ぶ静かな住まいとなっている


東京・中目黒と福岡に拠点を構えるMHAA建築設計事務所は、日本の風土や伝統素材に深い関心を寄せながら、現代的な視点と技術を融合させた設計手法を展開している。個人住宅や集合住宅、カフェ、ワイナリー、ホテルなど、多岐にわたる分野で建築設計および内装設計を手がけ、地域性と空間体験の両立を追求している。
その設計スタイルは、建築とインテリアの間に明確な境界を設けず、領域を横断する点に特徴がある。代表の干田正浩氏は、空間を「内側から構想する建築」と「建築的に捉える内装」の両面からアプローチし、従来の枠にとらわれない空間づくりを実践している。一般的な内装がテナントの型に合わせて仕上げ材や什器を配置するのに対し、MHAAでは空間の構造そのものに踏み込む設計が際立つ。たとえば「COFFEE COUNTY TOKYO」(2023年10月号掲載)では、既存の建物に異なる空間を挿入し、間に生まれる余白に機能を持たせることで、建築的な奥行きを生み出している。「kashiki」(2023年10月号掲載)では、天井を抜いてトップライトを挿入し、上階の窓から自然光を取り込むなど、光の操作にも積極的だ。
一方、新築の「盤桓(目黒の集合住宅)」では、敷地内の樹木の見え方や風の流れ、視線の抜けといった内部からの要素を重視し、建築の構成を導いている。
設計プロセスにおいては、同時進行する異なるプロジェクト間でアイデアが交差することも多く、領域を越えた発想がMHAAの設計やマテリアル開発に新たな可能性と広がりを生み出している。
干田氏が特に重視するのは、風や音、香り、温かさといった、目には見えない空間の要素である。五感に訴える設計を通じて、使い手の記憶や感情に深く働きかける空間は、日常に静かな感動をもたらす。過去にアフリカで行った集落調査の経験も、現在の設計思想に大きな影響を与えているという。人々の暮らしと空間の関係性を根源的に見つめ直すその体験が、MHAAの建築に独自の視点と深みを与え、設計の一つひとつに確かな哲学を宿している。



「渋谷サクラステージSHIBUYAタワーオフィスエントランス」(2025年6月号掲載)5階ロビーには円弧のアプローチ上に金属のメッシュウォールを設置。音と光の立体的な演出で渋谷らしさを表現
「渋谷サクラステージSHIBUYAタワーオフィスエントランス」(2025年6月号掲載)5階ロビーには円弧のアプローチ上に金属のメッシュウォールを設置。音と光の立体的な演出で渋谷らしさを表現


三筑遺跡のリサーチから着想を得た空間である「とどろき酒店」。洞窟のような曲面壁と土器のような質感を持ち、九州の土と無農薬の稲藁を練り込んだ左官で仕上げている
三筑遺跡のリサーチから着想を得た空間である「とどろき酒店」。洞窟のような曲面壁と土器のような質感を持ち、九州の土と無農薬の稲藁を練り込んだ左官で仕上げている

撮影:TOREAL 藤井浩司

MHAA建築設計事務所 

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