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住宅の質を上げる断熱・省エネリフォーム/断熱・省エネリフォーム推進タスクフォース
2025.11.14 | レポート
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上/築47年の住宅をフルリノベーション。昔の小割りの間取りから、広々としたリビング&ダイニングキッチンに一新。既存の窓を生かしながら断熱・省エネリフォームを施して、開放的な開口を設けながら快適な室内環境を保つ。設計/櫻井建設(山形県) 写真提供/LIXIL
快適さだけでなく健康にも影響するのが、住宅の中の寒暖差だ。断熱・省エネリフォームをすれば寒暖差が解消され、既存住宅が心地良い住宅に生まれ変わる。末長く豊かな暮らしを紡ぐために、断熱・省エネのメリットとリフォーム手法を紹介する。
断熱性能は住宅の質を底上げするインフラのようなもの。行政と民間が歩調を合わせて普及を後押しし、2025年夏には、環境省が推進する国民運動「デコ活」の一環として、住友不動産を代表事業者に、窓サッシ会社、業界団体など7社が業界の垣根を超えて連携し、業界横断の連携組織「断熱・省エネリフォーム推進タスクフォース」が発足した。
では断熱性能が低いとどのような影響が出るのだろう。冬はリビングで足元が冷えたり、脱衣室や廊下が底冷えする。夏は熱気がこもり涼しくならない……。
実は、日本の住宅は世界的に見ても断熱性能が低いといわれている。既存住宅の約82%が現行の省エネ基準(断熱性や気密性などを定めた国の基準)を満たしておらず、約24%は無断熱とされている*1。また、世界保健機関(WHO)は冬の室温を18度以上に保つことを推奨しているが、国内では16度未満の住宅も少なくない*2。適切な室温は居心地だけでなく健康にも直結する。住宅内の温度差が大きいと、血圧の急上昇やヒートショックの一因に。「冷えは万病のもと」といわれるように、低温環境では高齢者ほど血圧が上がりやすく、寒い住宅では高コレステロールや睡眠の質が低下するなどの健康リスクも指摘されている*3。
「断熱・省エネリフォーム推進タスクフォース」が提唱する断熱・省エネリフォームは既存住宅を活かしながら、断熱性能や省エネ性能を高めるための改修を施す手法だ。一例として、熱の流入出の約6割を占めるといわれる窓を、断熱性の高い樹脂を使ったサッシやLow-E複層ガラスに交換するだけでも冬の冷気や夏の日射を大きく抑えられる。大開口や吹抜けのある空間でも、開放感を損なわずに快適な温度環境を保てるのだ。さらに床・壁・天井を断熱材で覆うことで、熱の出入りを遮断(図1)。室内の温度差が小さくなり、結露やカビの発生も抑制され、住宅の寿命を延ばす効果も期待できる。高断熱化は、省エネ面でも大きな効果を発揮する。冷暖房効率が上がることで、年間約9万円、20年で約188万円の光熱費を削減できるという試算も*4。
補助金や減税制度も整っており、費用負担を軽減することが可能だ。長期的な光熱費削減や健康面での効能を考えれば、メリットがあるだろう。
省エネ基準は継続的に引き上げられ、’25年4月に施行された最新基準と比べると、10年前の住宅でさえ、今では最低ラインに近い性能となる(図2)。しかし断熱の効果は目に見えにくい。たとえば床と天井に大きな温度差があると、頭は暑く足は冷たい「頭熱足寒」に。しかし断熱性能が高いと、温度ムラが軽減される。実際にサーモグラフィを比較すると、10年前の断熱基準の住宅では床と天井の温度差が約3度、最新基準の住宅では1度程度まで縮まっている(図3)。快適な状態ほどその良さを意識しづらいが、実際に体験すると数値以上の差を感じるはずだ。こうした違いを確認できる体感型のショールームも登場している。
夏が暑くて冬が寒いのは、もはや当たり前ではない。快適さという土台が整えば、空間デザインや暮らしをもっと楽しめるはずだ。
詳細は、断熱・省エネリフォーム推進タスクフォース ポータルサイト参照
https://dannetsu-shouene.reform-tf.com
*1/国土交通省 令和6年度住宅経済関連データ(https://www.mlit.go.jp/common/001133976.pdf)
*2、3/国土交通省補助事業:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査第9回報告会資料
*4/環境省「デコ活」サイトより(https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu)

住宅の断熱性能の推移。平成28(2016)年基準(等級4)が2025年から新築住宅の義務水準となり、さらに’30年には、ZEH基準(等級5)やHEAT20 G2(等級6)といった、より高い性能水準への移行が見込まれている。提供/LIXIL

異なる断熱性能の空間を比較したサーモグラフィ画像では、HEAT20 G2グレードの「これからの家」は室温がほぼ均一に保たれており、平成28(2016)年基準(等級4)の「今の家」と比べても温度のムラが少ない。昭和55(1980)年基準(等級2)の「昔の家」では、床付近が16度まで下がるなど、寒暖差が大きいことがわかる。 提供/LIXIL
Text : Mai Uebayashi 取材協力/断熱・省エネリフォーム推進タスクフォース(住友不動産、一般社団法人住宅開口部グリーン化推進協議会、一般社団法人JBN・全国工務店協会、三協立山、住友不動産ハウジング、LIXIL、YKK AP)


