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内原智史氏に聞く
ライティングデザインの未来

2016.10.03 | INTERVIEW

インテリアや建築において、そこで過ごす人の気持ちに大きな影響を及ぼすのが照明のデザインである。
これまで、幾多の商業施設や公共空間、更には重要文化財のライトアップまで、幅広い分野でのライティングデザインを手掛けてきた内原智史氏に、最新事例を聞くとともに、照明器具の分野で新たな可能性に挑戦するミネベアの照明シリーズ「SALIOT(サリオ)」について、プロフェッショナルの視点からの意見を聞いた。

“違和感”を取り除く照明計画

京阪電鉄・枚方市駅前に位置する商業施設の「枚方T-SITE」は、蔦屋書店を核に、雑貨や食を提供するライフスタイルショップ、レストラン、銀行などが集まる「生活提案型デパートメント」。建物は駅側の大部分がガラスの開口部で、カフェを併設した店内で本を手にする人の姿が外からよく見える。


同施設の屋内外の照明デザインを担当した内原智史氏は、さまざまなコンテンツを融合して外部に発信する場という役割にふさわしく、店内の書棚まわりなど室内照明としての機能を果たすリアルな光をそのまま外部に見せるよう施設全体の照明を計画している。


店内の心地良い雰囲気を自然に見せるため、建築外観のポイントを演出するような光はあえて設けていない。


また、店内には、幅広い年齢層の人々が歩き回ったり、イスに座って本を読んでくつろいだりする風景や空間の奥行きを、そこにいる人が気にしないくらい“自然”な光で魅力的に見せるさまざまな工夫が施されている。


中でも内原氏は、施設全体のダウンライトとスポットライト、そして、間接照明という3種類の光の色をそろえることにこだわった。


壁一面の書棚には、棚板に照明を仕込んだ。また、ダウンライトとスタンドやペンダントの意匠照明、間接光の色をそろえる照明計画を実現した
壁一面の書棚には、棚板に照明を仕込んだ。また、ダウンライトとスタンドやペンダントの意匠照明、間接光の色をそろえる照明計画を実現した


内原氏は「ライフスタイル全般を扱う“都市のリビング”として、複数の色の光が混在する雑然とした風景ではなく、店内を一つの家のように見せるため」とその狙いを説明する。


施設全体のベースとなる色温度を2700Kに設定し、ポイントとなる部分には色温度が少し高い3000Kの光を照射してフレッシュな印象をつくり出した。


「LEDが成熟して演色性も上がったとはいえ、現在のLED照明器具はLED素子によって緑や黄色、ピンクなど特定の色に寄って見えます。器具の選定にあたって2700Kのダウンとスポット、間接照明に使うラインの器具を集めたところ、3種類の光の色がそろわない状態でした」と振り返る。


そこで多数の器具を目視で比較するとともに、色温度と色相の偏りや演色性を決める光の波長の全体像を確認し、光色を近づけられるものを取捨選択していった。最終的に2種類に絞り込み、日没前の自然光と店内照明が混ざった際の違和感や、スタンドライトの光源との差が少ない、わずかに黄色みのある電球色の器具が選ばれた。


建築全体の照明デザインを内原智史デザイン事務所が手掛けた「枚方T-SITE」(2016年)夜景。自然で快適な光環境を実現するため、光源の選択に細心の注意が払われている(撮影/ナカサ&パートナーズ)
建築全体の照明デザインを内原智史デザイン事務所が手掛けた「枚方T-SITE」(2016年)夜景。自然で快適な光環境を実現するため、光源の選択に細心の注意が払われている(撮影/ナカサ&パートナーズ)


内原氏は照明デザインを絵画に例えてこう話す。


「使う道具が違ってもそこに注がれる光は一つであってほしい。それは、絵筆を取る側にとって最低限の条件です。ベースとなる光をストレスや濁りのない状態にして、そこに抑揚を付けていく。ボールペンで固い線を描きたい時もあれば、筆で一気に力強く描きたい時もある。道具を使っていろんなことを表すために、ベースになる色をそろえるのです」

居住者を迎える光

高級レジデンス「ザ・ウェストミンスター南平台」では、居住者が帰宅する時間帯に、暗くても安心できる光を意図したという。


エントランスロビーから見える庭園を印象的に表現しながら、内外の光を一体的につくっていった。庭園にある和泉正敏氏による石のオブジェや挟土秀平氏による左官の壁、植栽が丁寧に照らされ、さらに水の揺らぎに光が反射して左官の壁に水紋が映り、植栽が風になびいているように見える。


また、ロビーからガラス越しに庭園を見る際に、空間の奥行きを感じさせるように、室内側の壁面の腰高の位置に、人が通るとゆらぐ光を並べて窓に映り込ませた。


空間の平均照度を上げるためのダウンライトや演出のためのスポットライトは使われていない。


内原氏は「パブリックエリアである集合住宅のロビーは、シンボリックな絵画などが飾られ、照明は明るく計画されがちです。とはいえ、エントランスのセキュリティーを越えた瞬間に裸足になりたいような気持ちになるプライベートな空間でもあります。そこで、ただ暗いだけの空間にするのではなく、プライバシーを守りながら質感を上げるように計画しました」と説明する。


エントランス周りの共用部や庭園の照明デザインを内原智史デザイン事務所が手がけたレジデンス「ザ・ウェストミンスター南平台」(2016年)。自然石オブジェと左官のアートウォールを効果的に見せるライトアップがなされた(撮影/後藤徹雄)
エントランス周りの共用部や庭園の照明デザインを内原智史デザイン事務所が手がけたレジデンス「ザ・ウェストミンスター南平台」(2016年)。自然石オブジェと左官のアートウォールを効果的に見せるライトアップがなされた(撮影/後藤徹雄)

薄型レンズによる「SALIOT」の フォーカス機能

ここで紹介した2事例のように、その空間の用途に合わせた光の質を追い求める内原氏に、ミネベアが新たに開発した「SALIOT(サリオ)」シリーズの印象を聞いた。


「『SALIOT』は、配光や色温度、首振り角度をスマートフォンやタブレットなどから調整できる照明器具シリーズで、初めて見た時に、まさに夢を実現してくれる照明器具だと思いました。普段私たちは多品種の照明器具をトータルコーディネートしていますが、この器具によって多機能一機種で空間を構成できる可能性も広がります」


「SALIOT」のLEDスポットライト。配光はナロー(10°)からワイド(30°)までの調整が可能
「SALIOT」のLEDスポットライト。配光はナロー(10°)からワイド(30°)までの調整が可能


機能の中でも最初に注目したのは薄型のシートレンズによるフォーカス機能だという。


「小さな点光源に薄型のシートレンズを組み合わせて配光を制御しており、無段階に調整できることで狭角、広角といった2、3種類の選択肢では実現できない配光をつくることができます。照明デザイナーの仕事は、どうしても器具ごとの配光特性、反射板やレンズの形状に左右されるため、この効果は大きい。また、私たちは経年変化するような場所では、その変化に応じて少しずつ照明を変えていきたいと思っています。一度設置した器具を後から簡単に調整できることで、将来的な変更を踏まえた新しいデザインもできるようになるでしょう」


「SALIOT」のLEDユニバーサルダウンライト。スポット同様に照射方向の調整が可能
「SALIOT」のLEDユニバーサルダウンライト。スポット同様に照射方向の調整が可能


また、「SALIOT」がスマートフォンで制御できることにも新たな可能性を感じているという。


「今、自動車やスマートフォンにはユーザーがカスタマイズできる付加価値が加えられていて、ユーザーは完成されたデザインを受け取るだけでは満足できなくなっています。『SALIOT』のように、従来の照明器具にないユーザーインターフェースを備えることで、利用する側が光をカスタマイズできる要素が加わりました。ハードウェアとユーザーの関わり方はランプ交換だけでなく、これからは、時間の経過や利用シーンに応じて光を変えていくということが自然に起こるでしょう」


ユーザーが照明器具を身近に感じ、維持だけでなく「進化させたい」と思う未来はすぐそこにあると語ってくれた。


ミネベアの新型LED照明器具「SALIOT」はスマートフォンにより配光や照射方向を調整できる
ミネベアの新型LED照明器具「SALIOT」はスマートフォンにより配光や照射方向を調整できる


ミネベアの新型LED照明器具「SALIOT」はスマートフォンにより配光や照射方向を調整できる

内原智史
1958年京都府生まれ。多摩美術大学デザイン科卒業。石井幹子デザイン事務所を経て、1994年内原智史デザイン事務所設立。ライティングデザイナーとして、「東京国際空港国際線旅客ターミナル」「虎ノ門ヒルズ」「平等院鳳凰堂」など、幅広い施設のライティングデザインを手掛けている。

ミネベア

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