Loading...

id+ インテリア デザイン プラス

インテリアデザイン・建材のトレンドを伝えるメディア Presented by 商店建築

  • Home
  • 記事を読む
  • Special Feature
  • 「GREEN SPRINGS」開発プロセス生活に寄り添う「公園」型複合施設で街にウェルビーイングな価値を提供する

「GREEN SPRINGS」開発プロセス
生活に寄り添う「公園」型複合施設で街にウェルビーイングな価値を提供する

2021.09.01 | Special Feature

東京・立川にオープンした複合施設「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」。約1haもの広さを誇る緑豊かな広場「PARK」を、レストランやショップ、ホテル、オフィス、コンサートホール、ミュージアムが囲む。空が広く、緑と水にあふれる贅沢なプランはなぜ実現できたのか。内外をつなげ、施設全体が公園のように心地良い空間はいかにして生まれたのか。

プロジェクトを率いた立飛ストラテジーラボ執行役員の横山友之さん、マスターデザイナーとして起用された建築家の清水卓さん、マスターランドスケープデザイナーの平賀達也さんに話を聞いた。



『商店建築』2020年12月号に掲載したものを再編集したものです

容積率の効率化を競う
開発はもう限界

東京郊外という立川の立地特性を活かした開放感あふれる公園のような「グリーンスプリングス」には、平日から週末まで昼夜を問わず、老若男女さまざまな人が訪れ、にぎわっている。パーゴラで仕事をする人、弁当を食べる親子、ベンチで談笑するグループなど、思いおもいに時を過ごし、自由に使いこなしている風景が印象的だ。建物内部からもPARKを望む窓一面の緑を見ながら食事や仕事ができる。敷地内の至る所で風や日光、水、緑などの自然を感じられるつくりとなっているのだ。通常、事業性を考えれば、レンタブル比が低く、維持管理費も掛かる緑地をこれほど広く取ることは難しい。なぜここでは実現できたのだろうか。


 「グリーンスプリングス」を企画・開発、運営している立飛グループは、1924年に設立された石川島飛行機製作所(その後、立川飛行機に商号変更)を前身とし、戦後は立川市の25分の1の土地を所有する、地域の地主的存在として不動産事業を展開してきた。プロジェクトの発端は、2015年、財務省から国営昭和記念公園に隣接する敷地を取得したことにさかのぼる。プロジェクトリーダーを務めた立飛ストラテジーラボ執行役員の横山友之さんは「地域の大地主として責任を果たそうと、長期的な視点で、エリア価値の向上を目指す開発を志しました。ここだけで収益を上げようとは考えていないのです」と振り返る。とはいえ、土地を取得した時点では、計画は白紙状態。それから3年以内に着工しなければいけないという急ピッチのプロジェクトだった。

 

「容積率の効率化を競う都心部の開発には限界を感じていました。そうした投資効率や収益から事業を組み立てる手法と差別化し、都市と自然の中間点という立川のポテンシャルを活かすこと。そして、環境への憧れとでもいうか、次の時代に求められる価値観を提示するため、生きること、過ごすことに寄り添う場所を提供したい。その二つの方向性は最初から決まっていました」(横山さん)


後に、「次の時代が求める価値観」はウェルビーイング(=心身共に良好な状態)という言葉に変換され、「空と大地と人がつながるウェルビーイングタウン」というコンセプトに結実する。


ホール横の階段「カスケード」へと伸びる歩道の途中にパーゴラが配された。持ち込んだ弁当を食べたり、仕事をしたり、来客者が思いおもいに使用することができる
ホール横の階段「カスケード」へと伸びる歩道の途中にパーゴラが配された。持ち込んだ弁当を食べたり、仕事をしたり、来客者が思いおもいに使用することができる


レストラン「グッドスプーン ピッツェリア&チーズ」横の階段から「グッドサウンズコーヒー」を見る。大きく伸びた軒の下には、テラス席が設けられている
レストラン「グッドスプーン ピッツェリア&チーズ」横の階段から「グッドサウンズコーヒー」を見る。大きく伸びた軒の下には、テラス席が設けられている

商業施設ではなく
公園のような場所をつくる

プロジェクトの立ち上げからマスターデザイナーとして参画したのが、ランドスケープ・プラスの平賀達也さんだ。立飛ホールディングスが開発した「ららぽーと立川立飛」(2015年)のランドスケープを、平賀さんたちが手掛けた縁から、声が掛かった。


 「ランドスケープデザイナーが事業計画から参加することは稀です。今回は立飛ホールディングスの村山社長の下、心が通い合うチームが組まれました。『100年後の地域のため』を合言葉に、これからのビジョンを体現しようと計画を進めてきました。環境というのは事業の価値を左右しますからね」(平賀さん)  敷地の用途制限やこれまで立川にない施設を検討して導き出されたのは、ホテルやコンサートホール、オフィスなどのコンテンツ。その全体を統括するテーマとして、エリア価値の向上や市民の誇りとなるシビックプライドにもつなげようとイメージしたのは、ニューヨークの「セントラルパーク」だったという。そのため、中央に緑の広場を確保し、周囲に建築を配置する大胆なプランが生まれた。


 「我々は商業施設をつくろうとしたのではないのです。では何なのかというと、“コミュニティーパーク”でしょうか。ニューヨークのソーホーやブルックリンが発展したのはアーティストやメーカーなど、新しい入植者が入ったから。立川のイメージアップのため、そうしたコミュニティーを呼び込む場をつくりたかったのです」(横山さん)

軒を張り出し内外部の
緩衝地帯をつくる

では、具体的にどのように“コミュニティーパーク”づくりが進められていったのだろうか。街区のマスターデザインを任されたのは、建築家の清水卓さんだ。清水さんは「これは建築ではなく、公園の案件だと考えた」と振り返る。「“まちの縁側”というコンセプトを提案し、建築の存在をできるだけ消し、“間”をデザインするようなバランス感覚で取り組みました」(清水さん)


 “まちの縁側”には、隣接する昭和記念公園の自然と、立川駅前から続く街を接続し、人と地域、施設をつなぎ、建物内部と外部環境を融合するという意味が含まれる。そのため、内外を融合するさまざまな仕掛けを用意している。例えば、軒を2.5〜3.5m張り出し、外部と内部の緩衝地帯をつくる。開口部をガラス張りにして、ファサードとなる壁をなくす。コーナー区画に仕事や休憩が自由にできる「リビングルーム」をつくり、来訪者に開放する。また、床はモルタル、サッシの色は黒にして、緑が映えるようにした。


 「各テナントが公園に参加して欲しいと意図しました。軒下には、店からはみ出すようにテラス席や商品棚が設けられるゾーンを設定しています。それが、緑と建物と人を近づける効果も生み出しています」(清水さん)


ビオトープを見る。地域の在来植物を採用した植栽計画が施された
ビオトープを見る。地域の在来植物を採用した植栽計画が施された


誰でも自由に休憩ができる2階の「リビングルーム」。座席がはみ出すように配置され、にぎわいが区画から中央部分へとあふれ出していく
誰でも自由に休憩ができる2階の「リビングルーム」。座席がはみ出すように配置され、にぎわいが区画から中央部分へとあふれ出していく

地域の在来植物を採用した
水場が豊富なランドスケープ

ランドスケープでは「人が心地良く過ごせる環境」をいかにつくり出すかに苦心した。室内から外を見た時に、明るくきらきらと見えるように「光だまり」を意識し、芝生広場を設ける他、高木の下枝を払い、テナントが見えるよう視線に抜けをつくっている。遊歩道は建物の入り口から始まるなど、気持ち良く迷わず歩けることを重視。公園によくある禁止事項を示す掲示板はつくらず、サインも極力目立たないようにしている。パーク内には木製ベンチやパーゴラなど、多様な居場所を用意。自分の心地良い場所を見つけ出せるような設計にしている。


ランドスケープデザインの特徴の一つはX字の街路だ。立飛グループのアイデンティティーの象徴として、飛行機の離発着時の進入角度をモチーフに軸を交差させた。その軸の周囲には武蔵野の原風景を再現した植栽計画が施された。かつてあった飛行場の滑走路をイメージした水の流れるカスケードや多摩川をイメージさせるビオトープなど、水場を多く設け、地域の在来植物を植えている。


「グリーンスプリングスを立川という街の庭として捉え、地域の自然資本の再生を考えました。地場の匂いがすると、自分の場所だと思え、親密感が生まれる。シビックプライドにもつながるのです」(平賀さん)


広大な緑地の管理は、施工を担当した日比谷アメニスが請け負っている。平賀さんは、「この緑豊かな環境が事業価値の持続性を担保すると考えています。そのため、事業者に施工管理会社を選んでもらう。それもつくった会社が責任を持って管理するという方法が良い。私が設計した緑地では、年4回、事業者と管理者と協働巡回をして、管理状態を確認します。庭というのは持続して関わり育てていくものなのです」と話す。

自分たちの財産だと
思うから公園になる

「グリーンスプリングス」の圧倒的な緑地空間は評判を呼び、コロナ禍にもかかわらず、近隣は元より都心部からも来訪者を集めている。その理由をそれぞれ次のように分析する。「人にとって心地良い環境として受け入れられているのだと思います」(横山さん)。「コロナの影響で、より自分の感覚に忠実になっている。自分が身近な自然とつながっている感覚を求めているのでは」(平賀さん)。「植物を植えるから公園になるのではなく、自分たちの財産だと思うから公園になる。その関係性を結べているのだと思う」(清水さん)


心地良い環境に人は自然と引き寄せられる。緑のある開放的な空間で気持ち良く過ごしたい。「グリーンスプリングス」はそんな時代の願望を見事に体現している。
〈了〉

RELATED ISSUES

一覧に戻る

PAGETOP