Loading...

働く環境を整えて人材を育てる
〈ウェルネス空間〉としてのトイレ

2020.10.05 | INTERVIEW

万博パビリオンや歌舞伎町の超高層ビルなど、国内外で活躍のフィールドを広げる建築家・永山祐子さん(永山祐子建築設計)。今年7月に事務所を東京・荻窪から四ツ谷へ移転した。新オフィスはスタッフが手を動かし、DIYでつくり上げていった。トイレには、コンパクトな空間にも対応するINAXの「パブリック向けクイックタンク式床置便器」が採用されている。設計中の最新プロジェクトから移転先のトイレ事情まで、永山さんに話を聞いた。

「 水」をテーマにした
大型プロジェクト

住宅から店舗、公共空間まで幅広く手掛ける建築家の永山祐子さん。近年は、東京・JR山手線の高輪ゲートウェイ駅前で開催された「高輪ゲートウェイフェスト」(2020年9月6日まで)を始め、「ドバイ国際博覧会日本館」(21年10月開催予定)、「新宿TOKYUMILANO」(22年開業予定)という、国内外で三つの大型施設を設計している。「偶然ですが三つの建築には、『水』という共通のテーマが生まれました」と永山さん。それぞれのコンテクストをひも解いていった結果、異なる形で水をテーマに設計が進められた。


「『高輪ゲートウェイフェスト』は、レストランやミュージアム、イベントホールを備えます。大小同じデザインの円錐形のテント建築を並べ、うねる波のような『しらなみ』を表現しました。明治の頃まで会場周辺は海で、汽車が海沿いを走っていた。そうした情景を思い起こさせると共に、たくさんの人が寄せては返す様子をテーマにしました」


Takanawa Gateway Fest : JR山手線の新駅・高輪ゲートウェイ駅前の広場で開催された「高輪ゲートウェイフェスト」。白波をイメージしたテント建築は、円錐形のテント部分が二重膜になっており、直射日光で温められた空気が膜の中を下から上へ流れることで熱を逃がし、内部の熱環境を保っている(撮影/表恒匡)
Takanawa Gateway Fest : JR山手線の新駅・高輪ゲートウェイ駅前の広場で開催された「高輪ゲートウェイフェスト」。白波をイメージしたテント建築は、円錐形のテント部分が二重膜になっており、直射日光で温められた空気が膜の中を下から上へ流れることで熱を逃がし、内部の熱環境を保っている(撮影/表恒匡)


一方、ドバイ国際博覧会は今年秋の開催予定だったが、新型コロナウイルスの影響で1年延期となった。


「ドバイでは、豊かな水や緑は人々の憧れの対象です。かたや日本は水や緑に恵まれているものの水害との闘いもある。中東と日本のつながりを考えた時、両国民のパーソナリティーの根底に“水”があると感じました。そこで、会場入り口に設けたパティオに水を張り、上部を通る風が気化熱で冷やされパビリオンを吹き抜けるようにしています」


建物のフレームに取り付けられた約2000枚のPTFE膜が風で揺れ、日差しを遮る。フレームの立体格子は麻の葉模様になっていて、現地では小さな膜が張られた姿が「折り紙のよう」と話題になった。


ドバイ国際博覧会日本館 : 「ドバイ国際博覧会日本館」外観パース。建物前面に水盤を設け、水辺に吹いた風が気化熱で冷やされ、パビリオンを通り抜ける。フレームの麻の葉模様の立体格子は、イスラムの幾何学文様とのつながりも表している(画像提供/日本館広報事務局) 会期/2021年10月1日~2022年3月31日 URL/https://expo2020-dubai.go.jp/ja
ドバイ国際博覧会日本館 : 「ドバイ国際博覧会日本館」外観パース。建物前面に水盤を設け、水辺に吹いた風が気化熱で冷やされ、パビリオンを通り抜ける。フレームの麻の葉模様の立体格子は、イスラムの幾何学文様とのつながりも表している(画像提供/日本館広報事務局) 会期/2021年10月1日~2022年3月31日 URL/https://expo2020-dubai.go.jp/ja


新宿・歌舞伎町の再開発プロジェクトでは、ホテル、劇場、飲食、物販で構成された全館エンターテインメントの超高層ビル「新宿TOKYUMILANO」のファサードデザインを手掛けている。テーマとなったのは、歌舞伎町に吹き上げる噴水。永山さんは「戦後復興を民間で成し遂げた歌舞伎町は、弁天様を祀る水と縁の深い場所。再開発の起爆剤として人々の熱意によって吹き上がる噴水を、ファサードのガラス表面に約200種類のプリントを施して表現する予定です」と話す。


新宿TOKYU MILANO : 東京・新宿歌舞伎町に2022年完成予定の「新宿TOKYU MILANO」は、ホテルや劇場、飲食、物販の全館エンターテインメント空間で構成された高層ビル。永山さんは外装デザインを手掛け、吹き上がる噴水をプリントしたガラスの反射などで表現。波をモチーフにしたオリジナルパターンのアルミキャストでファサードを覆う(画像提供/東急株式会社、株式会社東急レクリエーション)
新宿TOKYU MILANO : 東京・新宿歌舞伎町に2022年完成予定の「新宿TOKYU MILANO」は、ホテルや劇場、飲食、物販の全館エンターテインメント空間で構成された高層ビル。永山さんは外装デザインを手掛け、吹き上がる噴水をプリントしたガラスの反射などで表現。波をモチーフにしたオリジナルパターンのアルミキャストでファサードを覆う(画像提供/東急株式会社、株式会社東急レクリエーション)

水圧と寸法の問題を
解決する器具選定

永山さんが独立して18年、プロジェクト規模も大きくなり、現在は14人の所員が在籍している。これまでは子育てと仕事を両立するため、保育園と自宅が近い荻窪に事務所を構えていた。スタッフ数が増えて前事務所が手狭になったこともあり、契約更新のタイミングで東京・四ツ谷に移転した。


「打ち合わせの移動時間を考えると、荻窪はロスが多いということに最近気付きました。子供たちが小学生に上がって時間の余裕が生まれたこともあり、スタッフの通勤時間や働きやすさを考慮して、交通の利便性から今のオフィスを決めました」


物件は、永山さんが実際に見た中で、3駅利用できる利便性と眺望の良さから決定。細長い間取りがシンプルでプランしやすい点も決め手となった。


しかし問題となったのがトイレだ。「私は物件をとても気に入ったのですが、スタッフからはトイレへのクレームが出たんです。元は広い個室トイレが1カ所だったため、『10人以上で個室ひとつは少ない』『男女を分けてほしい』という声が挙がりました」。そこで、ひとつの個室トイレを二室に分けるという大胆な改装がされた。しかし、一室のスペースが狭いこと、ビルが古く上層階で水圧が低いことから機器の選定が課題となった。


「洋便器を2台に増やし、排水管を横引きするため床をふかしました。結果、個室の奥行きと天井の高さがギリギリの寸法に。フラッシュバルブ式の便器を使うには水圧が足りない可能性があり、タンク式はサイズが大きくなってしまいます。そこで、タンク式でありながらコンパクトなINAXの『パブリック向けクイックタンク式床置便器』を採用しました。タンクの存在感が心配でしたが、厚さ85 ㎜と薄いためまったく気になりませんでした。洗浄間隔も早く、スタッフからの評判も高いです」


トイレ個室前の通路。壁面から突き出るように扉と枠部分を設け、個室内部の奥行きを最大限確保している
トイレ個室前の通路。壁面から突き出るように扉と枠部分を設け、個室内部の奥行きを最大限確保している


タンク式というと陶製で蓋を載せた姿を思い浮かべるが、同製品のタンクは薄いパネルのようなミニマルなデザイン。このタンク部を兼ねた薄型パネルの内側に壁面の給水管やコンセントなどが納まるので、トイレ空間をすっきりと見せてくれる。また、フラッシュバルブ式と同じ間隔で連続使用できる点も、オフィスで使うには嬉しい機能だ。


「カラーバリエーションも豊富でしたが、今回は壁面と合わせて白で統一しました。壁面とトイレが同じ色だと、トイレだけ浮かずに空間になじみます。最近はトイレにも災害時の対応が求められるため、電気や水道が止まっても水を足して使えるタンク式が見直されています」

DIYのオフィスづくりが
経験値となる

引っ越し期間はコロナ禍での自粛期間と重なっていたので、スタッフはテレワークしつつ、出社日に移転準備を進めていった。トイレ内部のつくり付けのカウンターは、スタッフが設計し大工さんにベースをつくってもらい、DIYで塗装したものだ。カウンターには薄型の手洗いやペーパータオルホルダー、ゴミ箱などを収めている。「トイレはオフィスにおいてリフレッシュのきっかけとなるウェルネス空間なので、すっきりとした気分になる使い勝手の良いデザインが大切ですね」と永山さん。


「荻窪の前事務所もそうでしたが、オフィスのデスクや収納など必要な家具は、スタッフによるDIYでそろえていきました。引っ越しをひとつのプロジェクトとして、棚や倉庫、トイレなど担当を決めています。例えば棚は、3×6板の針葉樹合板から効率的にパーツを切り出し、短期間で施工できて見た目も綺麗な家具を考えてもらいました。自分たちの居場所をつくっていくことは、空間設計の勉強になります」


永山さんの事務所を会議室から見通す。左手の棚などは、DIYを採り入れながら、針葉樹合板で制作。執務スペースの机なども自分たちが使いやすいように設計していった
永山さんの事務所を会議室から見通す。左手の棚などは、DIYを採り入れながら、針葉樹合板で制作。執務スペースの机なども自分たちが使いやすいように設計していった


また事務所運営にあたり、永山さんはスタッフを今以上増やすつもりはないと言う。スタッフは数年で独立することを前提に、なるべく多様なプロジェクトを経験できるよう担当を割り振っている。


「自分が進行を直にチェックできてコミュニケーションを取れるのは、15名ほどが限界だと考えています。それ以上になると管理職的なポジションが必要になる。事務所の規模を大きくするよりも、プロジェクトごとに他の分野の専門家と協働したり、卒業生と一緒に仕事したいですね。スタッフは高いモチベーションを持って設計に取り組んでくれますし、卒業生の評判を聞くと嬉しいです」


トイレの衛生環境を整えることは、スタッフの健康を保つだけでなく、モチベーションを引き出す役目を担っていると言える。

20201005_lixil_interview_profile

ながやま・ゆうこ
建築家。1975年生まれ。青木淳建築計画事務所を経て、永山祐子建築設計を設立。住宅設計の他、ブティックやカフェ、ホテル、商業ビルなど幅広く設計を手掛ける。最近の主な仕事に、「tonarie 大和高田」(19年3月号)、「玉川髙島屋S・C本館 グランパティオ」(P.117)など。

パブリック向け
クイックタンク式床置便器

フラッシュバルブ式トイレの交換にも適した、コンパクトで高性能なトイレ空間をグレードアップするクイックタンク式トイレ。タンク式でありながら奥行きが675 ㎜と、世界最小のタンクレストイレとほぼ変わらず、多くのフラッシュバルブ式より小さい。


20201005_lixil_interview_slide_6


20201005_lixil_interview_slide_7


リフォーム用は排水栓可変式で柔軟に対応する。また、フラッシュバルブ式から交換する際は、薄型タンクが止水栓やコンセント、給水ホースなどを隠してくれる。便器はホワイトとオフホワイトの2色、タンクはシルバーやグレーベージュなど5色を用意し、便器とタンクのツートンカラーのコーディネートも楽しめる。


東京・四ツ谷にあるビルのワンフロアを改修した永山祐子建築設計。トイレはひとつだった個室を二つに増設し、奥行きがコンパクトでリフォームに適した「パブリック向けクイックタンク式床置便器」が採用された。壁とタンクの色を白にして統一感を出している
東京・四ツ谷にあるビルのワンフロアを改修した永山祐子建築設計。トイレはひとつだった個室を二つに増設し、奥行きがコンパクトでリフォームに適した「パブリック向けクイックタンク式床置便器」が採用された。壁とタンクの色を白にして統一感を出している

RELATED ISSUES

一覧に戻る

PAGETOP