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オフィス転用における
トイレ空間の在り方

2020.01.06 | INTERVIEW

青空の下で仕事ができる「ガーデンオフィス」。その夢を形にするため、鎌倉を拠点とする面白法人カヤックとVUILD 秋吉浩気さんがタッグを組み、元々あった民家を再利用して廃材を出さないオフィスづくりに挑戦した。

鎌倉資本主義を掲げ、開かれた社食「まちの社員食堂」(設計:彦根アンドレア)や、地域に根ざした企業主導型保育施設「まちの保育園」(設計:宇賀亮介)、庭園を建物に取り込んだ「ぼくらの会議棟」(設計:サポーズデザインオフィス)など“街をオフィスにする”ことを目指してきた面白法人カヤックが、VUILD 秋吉浩気さんと共につくった「ガーデンオフィス」。公園のようなオフィスが鎌倉の街に生まれた経緯を、同社CEO柳澤大輔さんとVUILD 秋吉さんに聞いた。



壊すことから偶然生まれた
ガーデンオフィス誕生秘話

神奈川・鎌倉駅から徒歩4分、カヤック研究開発棟に隣接する宅地が売りに出され、それを購入したことが「ガーデンオフィス」の出発点だったと柳澤さん。


柳澤 ー 住居は2棟あり、最初は2棟ともリノベーションしてオフィスにする予定でした。そこでカヤックパートナーオフィスやカヤック ブレストテーブルの開発を依頼していたVUILD の秋吉さんに、面白いものを一緒につくりたいと声を掛けました。


秋吉 ー VUILDは一級建築士事務所であると共に、木材のデジタル加工機や設計ソフトを開発し、家具や建築を出力するシステムを提供しています。全国の中山間地域にこれらの基盤を置き、ワークショップやコミュニティーづくりを通してモノづくりを行い、我々が開発したプロダクトを地域と共有することで、ビジネスの促進を目指しています。


柳澤 ー 秋吉さんは、考え方も、やろうとしていることも面白いし、デザインも素晴らしい。3拍子そろった人だと思いました。将来的には彼が提唱するように、木材の3Dプリンターで家を建てるようになるかもしれない。建築の領域を広げていく姿には、ウェブの広告ビジネスからスタートして領域を広げていった、私たちとも共通点を感じます。


秋吉 ー このオフィスについては柳澤さんから具体的な指示はなく、思いつくままに提案していきました。接道の関係で新築は難しく、半年ほどは2棟とも躯体を残してリノベーションする計画を進めていました。しかし入り口手前側の棟は、増改築を繰り返していて基礎も無筋だったため、耐震補強にかなりの費用が必要だと分かりました。


柳澤 ー オフィスとしては費用対効果が合わないことが分かり、解体することになりました。リノベーションを前提に骨組みまで綺麗に解体されていたので、忍びない思いもありましたが、ここから「ガーデンオフィス」の構想が芽生えました。実は鎌倉の駅周辺は建物が密集し、公園が意外と少ないため、近隣の方も利用できるガーデンがあればなと感じていました。我々は鎌倉に移転してから、街全体をオフィスに見立てようという活動を続けてきました。通りがオフィスの廊下のようになり、社員食堂が街で働く人に開かれた食堂になり、一般のカフェを会議室として貸してもらい、そうして会社が街になじんでいく中で、庭でありオフィスでもある場があっても良いと思いました。


3Dスキャンデータを活かして
廃材を再利用する

秋吉 ー 骨組みまで解体した段階で、構造を3Dスキャンで解析し、耐震補強の緻密な構造計算を行っていました。結局は全て解体することになったものの、3Dスキャンしたデータは、かつての家を忠実にデジタル化したアーカイブとして残し、動画にして製作過程を伝えるツールになりました。また、古民家再生に役立つデータも取れました。更にデータを活用して、普通は産業廃棄物になってしまう部材まで「ガーデンオフィス」に再利用しています。3Dスキャンデータによって木材の本数、形状、容量が把握できたので、それをステージの土台に使ったり、テーブル、ベンチの材料にしたり、屋根瓦を通路に埋め込んでいます。基礎のコンクリートは敷地に残し、柱・梁などの木材、屋根瓦も再利用することで、産廃物はほとんど出していません。家は解体されたものの、ある意味できちんとリノベーションされたとも言えます。


柳澤 ー 鎌倉市はSDGs未来都市に選ばれています。SDGsは国連サミットで採択された持続可能な開発目標です。今回の廃材を出さずに敷地内で使い切るという試みは、SDGs未来都市の理念にぴったりだと感じました。こうした事例が生まれることによって、持続可能な発展につなげていければ嬉しいです。また産業廃棄物を出すことに対して罪の意識を持つ人も増えていますから、ここは職人にとっても良心を傷めない良い現場だったと思います。


秋吉 ー 構造物のデザインは、社名にちなんでカヤックをモチーフにしました。空に2艘のカヤックを浮かべるため、2本の鉄骨柱の間に10mほどの梁を飛ばし、橋梁の構造を応用して最小限の部材で強度を保つよう設計しています。材料には厚さ36㎜のスギ材CLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)を利用しました。CLTは木材の板同士を直交して積層接着したパネル材で、大量に余っている質の低い木材を建築物に利用する手段として注目されています。通常は大判のパネル材として壁構造の建築に使われますが、今回はパネルから曲線のパーツを切り出しました。無垢材に比べ目切れが起きにくく、パーツの歩留まりよくパズルのようにパッキングすることで、コストを抑えることもできます。


柳澤 ー エコロジカルで工期は短く、コストも掛からない。こうした発想が面白いと思います。


秋吉 ー 主軸の梁は、元の家の軸線に合わせて設置しました。圧縮力と引張力を相互に持たせたブリッジ構造で、入り口から見て左側は上向きに、右側は下向きに円弧を描き、洋船の竜骨にも似ています。今回は自主的に部材の耐力試験を京都工芸繊維大学で行い、引っ張り強度を測ってパーツの大きさを決めました。ジョイント部は、木のパーツを留め具とした噛み合わせと、金属のボルトを併用しています。実験して分かったのは、ボルトだけの接合よりも木のめり込み力を利用した方が耐力が高いことでした。設計ソフトにはライノセラスやグラスホッパーを使っています。そのデータを基にCLTのパネルをルーターで削り出します。弊社は川崎の町工場と提携していて、鉄骨の柱は3次元データを基にレーザーカッターで鉄材を切り、データの形通りに熔接してもらいました。表面にはローバル(常温亜鉛めっき)を塗りました。


木部のジョイントは、木製パーツのめり込みによる接合と金属ボルトを併用して強度を高めている
木部のジョイントは、木製パーツのめり込みによる接合と金属ボルトを併用して強度を高めている


柳澤 ー このような細かな話は自分も知りませんでした。完成までのプロセスによって、ガーデンオフィスの意義も社員に伝わると思います。建築には人を呼び込むパワーがあり、我々が展開する鎌倉への移住促進の事業でも、素敵な生活空間を用意することで、若い家族が地方へ喜んでやってきます。ガーデンオフィスは社員がランチタイムなどに使っていますが、今後はスペースを貸し出したりイベントを開いたりして、街とのつながりを築いていきたいと思います。


秋吉 ー 入り口の近くには廃材を並べたステージのような場所をつくりました。そこに屋台を設けたり、スクリーンを吊って上映会を開くことを想定しています。将来的にはステージのそばにガーデンキッチンをつくりたいと考えていて、給排水設備は準備してあります。テーブルやベンチの天板は、解体した木材から、大工に良い材を選別してもらいました。敷地が狭く奥まっているのでクレーンなどの重機を入れるのが難しく、足場を組まずに人力だけでパーツを運び、人の手で持ち上げて組み上げられるよう設計しました。小型のパーツを組み合わせることで大きな構造物をつくれることを示したかったのです。



テーブルには、元々あった家の柱材を転用した。天板に「特一等」の文字が見える。ノートパソコンが使えるようコンセントを設けている
テーブルには、元々あった家の柱材を転用した。天板に「特一等」の文字が見える。ノートパソコンが使えるようコンセントを設けている



柳澤 ー 鎌倉は長い歴史を持つ一方で、革新的なアイデアや取り組みを受け入れる土壌のある街だと感じています。秋吉さんを始め建築家の方々が、こうした試みの場として、鎌倉を選んでくれるのは嬉しいことですし、鎌倉から世の中を良くする取り組みを発信していきたいです。

転用に必要なトイレの条件とは

柳澤 ー オフィス棟で気を使ったのは、トイレの配置でした。特にトイレの音が漏れると女性がトイレに行きにくくなるので、住宅をオフィスやシェアハウスに転用する際は注意が必要です。住宅のトイレは家族での使用を前提としているので、オフィスや公衆トイレのようなプライバシーへの配慮があまりありません。過去には用を足すために外出する社員もいました。


秋吉 ー トイレについては柳澤さんからもプライバシーに配慮するよう要望を受けていたので、カヤックのスタッフと相談しながらプランを進めました。1階廊下の端と端に、男性用と女性用のトイレをそれぞれ配置しました。隣接していると隣の音が気になりますし、執務室から見える所では入るのが恥ずかしくなります。内装は「ガーデンオフィス」が連続するように、空と庭をイメージしました。空間を柔らかく明るくする色にしています。壁に貼ったカヤックのマークは、CLTの余りの材を切り出したものです。


新設したトイレ(女性用)には「パブリック向けタンクレストイレ」を採用した。タンクレスなので室内が広く使える。15A配管に接続でき、連続洗浄が可能
新設したトイレ(女性用)には「パブリック向けタンクレストイレ」を採用した。タンクレスなので室内が広く使える。15A配管に接続でき、連続洗浄が可能


オフィス棟1階には、2カ所のトイレを設置。こちらは元々トイレのあった場所に設置した「クイックタンク式トイレ」。15Aの配管で連続洗浄が可能で、リフォームに対応した排水芯可変タイプ。上と共通のワイヤレス式の壁リモコンは、電源不要の発電式を採用。シャワートイレには女性にも安心して使える“流水音”機能が搭載、プライバシーを配慮
オフィス棟1階には、2カ所のトイレを設置。こちらは元々トイレのあった場所に設置した「クイックタンク式トイレ」。15Aの配管で連続洗浄が可能で、リフォームに対応した排水芯可変タイプ。上と共通のワイヤレス式の壁リモコンは、電源不要の発電式を採用。シャワートイレには女性にも安心して使える“流水音”機能が搭載、プライバシーを配慮


これからますます増える一般住宅のオフィスなどへの転用には、トイレのリノベーションを重視する姿勢が求められるようだ。

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秋吉浩気
1988年大阪府生まれ。VUILD代表取締役 CEO。建築設計・デザインエンジニアリング・ソーシャルデザインなど、幅広い分野でデジタルファブリケーション技術を活用したプロジェクトを手掛ける。
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柳澤大輔
1974年香港生まれ。1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を構え、オリジナリティーのあるコンテンツをWebサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲーム市場などで発信している

オフィスやシェアハウスへの
転用に最適な
パブリック向けタンクレストイレ

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一般の住宅とオフィスが異なる点のひとつにトイレがある。まず給水配管は15A、25Aと太さが異なり、オフィスのトイレは25Aと太い配管を使うことで、フラッシュバルブによる連続洗浄を可能にしている。不特定多数が次々に利用するため、待ち時間のあるタンク式はトイレに行列をつくる要因になるのだ。


LIXIL「パブリック向けタンクレストイレ」は、一般住宅用の15A(内径13㎜)配管に対応したタンクレストイレで、連続洗浄が可能になった。一戸建住宅や社員寮、アパートなどを、オフィス、シェアハウス、介護福祉施設などに転用する際に最適な仕様で、古いオフィスの便器交換も視野に入れて開発された。


便座は汚れが入りやすい溝を無くした、清掃が簡単な「キレイ便座」。着座時に作動する「オート擬音」(洗浄音を発生)装置つきで音漏れが気になりにくく、無駄な洗浄を減らして節水になる。ワイヤレス壁リモコンは、ボタンを押すたびに発電するため電気配線工事が不要で壁面のどこにでも取り付けられる。リフォーム用に排水管の位置を調整できる「排水芯可変」タイプや床上排水タイプもあり、どんな現場にも柔軟に設置できるよう工夫されている。


面白法人カヤックの「ガーデンオフィス」。テーブルやベンチの上に2艘のカヤックが浮かんでいる。奥に見えるのがオフィス棟
面白法人カヤックの「ガーデンオフィス」。テーブルやベンチの上に2艘のカヤックが浮かんでいる。奥に見えるのがオフィス棟

株式会社LIXIL

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