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第88回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2019 商店建築セミナーレポート

2019.11.14 | REPORT

2019年9月、東京ビッグサイトで開催された「第88回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2019」の会場で、デザイナーの寶田陵氏(the range design INC. 代表取締役)、国内外でホテル事業を展開するグローバルエージェンツ・代表取締役の山崎剛氏を迎えたセミナーが行われた。セミナーのテーマは「客の気分を高揚させ賑わいを生み出す、ホテルのデザイン戦略&経営戦略~リゾート型から都市型まで」。雑誌・月刊商店建築の編集長である塩田健一がコーディネーターとして登壇し、現在のホテル業界において最前線で活躍する二者に話を聞いた。

登壇者/the range design INC. 代表取締役 寶田陵
グローバルエージェンツ 代表取締役 山崎剛
コーディネーター/月刊商店建築 編集長 塩田健一



セミナーの冒頭で塩田編集長は、「今、毎月発行している商店建築の中で、ホテル特集の注目度は高い。そのホテルづくり、デザイン戦略のニーズに応えられる人として、お二方に登壇いただいた」と語り、それぞれのホテルづくりで大事にしているポイントを掘り下げていく。


the range design INC. 代表取締役 寶田陵氏
the range design INC. 代表取締役 寶田陵氏


グローバルエージェンツ 代表取締役 山崎剛氏
グローバルエージェンツ 代表取締役 山崎剛氏


寶田氏は、ゼネコンでマンションを始めとする住宅設計を担当した後、都市デザインシステム(現・UDS)に所属し、コーポラティブハウスや同社が展開するユニークなホテルの設計に携わり、独立後も国内外の都市型からリゾートホテルまで多様な宿泊施設の設計を手掛けている。
山崎氏は学生時代にグローバルエージェンツを立ち上げ、国内外で不動産投資を中心に事業を拡大し、現在はソーシャルアパートメントやホテル、カフェなど様々なライフスタイル事業を展開している。
セミナーは塩田編集長が、今のホテルづくりに関する質問投げかけ、デザイナーと経営者それぞれの視点から答えていく形式で進められた。

セミナーの前半では、寶田氏と山崎氏それぞれの仕事が紹介される。寶田氏は近年手掛けた「渋谷ストリーム エクセルホテル東急」「HAMACHO HOTEL」や「BESPOKE HOTEL」といった都市型ホテルの他、リゾート系の開発中のプロジェクトを紹介。そして、山崎氏はグローバルエージェンツで行っているマンション内にラウンジやキッチンなどの交流スペースを設けて、住人同士の自発的な交流を誘発する「ソーシャルアパートメント」や、2013年から始まった「THE LIVELY」を始めとするホテル事業、カフェやレストランといった多岐にわたるプロジェクトを紹介した。


渋谷ストリーム エクセルホテル東急のラウンジ
渋谷ストリーム エクセルホテル東急のラウンジ


HAMACHO HOTELのロビー
HAMACHO HOTELのロビー


HAMACHO HOTELの客室
HAMACHO HOTELの客室


二者に共通しているのが、ラウンジやパブリック空間、人が集まる場所を大事にしている点だ。一般的な都市型のホテルにありがちな、個人のスペースが分断されるようなつくりではなく、人が集い、イベントなどを展開する場を設けることで、一人ではできなかったような新たなアクションを引き起こす仕掛けが施されている。
一方、寶田氏はホテルのある地域の特色を取り込みながら設計をしていくのに対し、山崎氏はホテル自体がその地域に影響を与えていくような内側から情報発信をすることに重きを置いている点が好対照だ。


グローバルエージェンツが手掛けるソーシャルアパートメントのコンセプトシート
グローバルエージェンツが手掛けるソーシャルアパートメントのコンセプトシート


その両者が一緒になって手掛けたホテル「THE LIVELY大阪本町」が2019年8月にオープンした。経営をグローバルエージェンツが行い、インテリアデザインをthe range designが担当している。同ホテルを始め、ライフスタイルに根ざしたサービスを提供して、それが短期的なトレンドで終わるのではなく、文化として発展し、生活者が当たり前の選択肢として選ぶものになるまで育てていくことを意識して事業を展開しているという山崎氏。「ホテルという業態は、海外から多くの人が訪れるだけでなく、国内でも様々な地域から宿泊者が訪れ、また周辺地域に目を移すと泊まる、食事する、待ち合わせするなど多様な利用シーンが集まっている、街の中でも特殊な存在だと思います。ただ、かつては帝国ホテルなど、街のシンボルとなるフルサービス型のホテルが存在感を示していたのに対して、ここ30年ほどは、街から隔離されたような閉ざされた都市型のホテルが増えてきた印象です。そこで、私たちがやりたいと思ったのが、デザイン性、音、アート、テクノロジーといったテーマのもと、現代的な視点で様々な活用の仕方ができるホテルをつくろうというものです」と語る。
寶田氏は同ホテルをつくるに当たっては、「ミレニアル世代をメインターゲットとして、居心地の良さや、重くない優美さ、ラフで過ごしやすい雰囲気をつくり、その他のホテルにはあまりないようなガジェットを取り込むこと」を意識したと話す。


THE LIVELY 博多福岡
THE LIVELY 博多福岡


「私たちのホテルは、インバウンドや国内客といった区切り方ではなく、ミレニアル世代を始めとする“その世代の価値観に響くもの”を意識しています。というのも、ミレニアル世代は、海外に行く頻度も多く、SNSで海外の情報やトレンドもあたりまえに手に入るため、国内も海外もあまり価値観が変わらないと思っています」と山崎氏。寶田氏は、「普通、ホテルのレセプションには様々な年代の人がいますが、THE LIVELYでは、30代くらいの人がほとんどで、上の年代はほとんどいないのが印象的でした」と言う。


THE LIVELY大阪本町
THE LIVELY大阪本町


また会場からは、「様々なホテルが出てきてサービスとしてもデザインとしても飽和状態になりつつあると感じるが、これからのホテルで大事になるキーワードや、新たに求められるポイントは何か」という質問がなされた。
それに対して山崎氏は「ホテルの価値の多様化は今後さらに進んでいくと思う。それは集客の方法がインターネットを通じて変化して増えているのも大きい。かつては旅行代理店主導で宿を予約していたため、誤解を恐れずに言えば、旅行代理店に好かれる使い勝手の良いホテルづくりが主流だった。しかし今は、個人が自ら予約するのが当たり前になっていて、ホテルが泊まってもらいたいユーザーにアプローチすることができる。絞り込んだターゲットであっても、そこにダイレクトに、魅力や価値が伝わるホテルづくりをすることが大事になると思う。どういうユーザーに泊まってほしいか、どんな体験をしてほしいか、どんな印象や思い出を残してほしいかを、純粋に追求できる時代になっているのではないでしょうか」と答えた。
そして寶田氏は「現在、海外からもホテルに泊まる人が多く訪れていますが、ホテルに“泊まらない”人にも、今の新しいホテルを訪れてほしいと思っています。パブリックスペースやラウンジに、ホテル周辺の人々が訪れ、自宅でもオフィスでもない、サードプレイスとして利用できる場をつくりたい。欧米ではホテルのパブリックスペースを宿泊者以外が使うのは当たり前の文化ですが、日本ではそういった光景はあまり目にしない。ただ『泊まってないのに使って良いのかな?』と躊躇ってしまうのも日本人らしい気質なので、ホテル側が『使って良いんですよ』ということが分かりやすいハードやオペレーションを仕掛けていくことが重要です。ホテルの周辺の人々が集まれる場所になれば、さらに新しいホテルのデザインが生まれていくと思います」と語った。

セミナー会場にはホテルや不動産の開発、設計関連のプロなどが詰めかけ、2020年のその先の新たなホテルづくりを示唆する内容に耳を傾けていた。



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