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インテリアデザイン・建材のトレンドを伝えるメディア Presented by 商店建築

石の官能性を感じさせる
ショールーム「STONES」

2019.08.05 | INTERVIEW

今年4月、東京・五反田の東京デザインセンターに石材のショールーム「STONES」がオープンした。
国内を始め、世界各国から集められた多種多様な天然石を、実際に見て、触れられる希有な空間だ。
設計を手掛けた飯島直樹氏(飯島直樹デザイン室)に、
そのデザインと、改めて石という素材の可能性、魅力を聞く。

向こうから来るのを待つ

石は“生き物”だと思う。海や地表の堆積物が長い時間を重ねて出来たものだし、さまざまな有機物の名残というか、生命感の残滓を感じ取ることができる。やはり人工物では決して代替できない、雄大で人の力の及ばない自然の賜物だ。人が操作し、デザインする素材というより、向こうから来るのを待つ、という位がいい。


ショールームのデザインをさせてもらえるとなって、いかにその物質感を引き出せるかを考えた。もちろん同時にショールームという機能を成立させなくてはいけない。特に石の種類はこれでもか、というくらい多種多様なものがあり、それをどうやって見せ、体感させるのかというのは大きなテーマだった。ただ、その膨大な種類の石からどれをどれだけ使ってもいい、という設計は貴重な体験だった。天然石をこのような選び方ができるのは、後にも先にもこれきりだと思う。


日本の石を積極的に選んだ。例えば床は鹿児島のもので、一見地味だけど、今のデザインの空気にとても合う。切り出し方や仕上げ次第で、別の素材にも見える。4つの表情を使い分けている。


区画自体はコンパクトで、加えて吹き抜け側の壁面はマリオ・ベリーニの建築へのリスペクトから、手が付けられない。壁を使って面でディスプレイできないわけだ。そこで多くの石材のための“収蔵庫”と、打ち合わせなどができるコミュニケーションの場所、それを大理石と御影石のアーチで分節しつつ、共存させた。

空間全体の照度を下げながら、引き出し内の石材は適度な明るさで見ることができるライティングが施されている
空間全体の照度を下げながら、引き出し内の石材は適度な明るさで見ることができるライティングが施されている

二つのアーチが切り取る石の世界

カタログや小さなサンプルでは為し得ない、石との対面状況をつくりたかった。ただ、すべてを大振りなサイズで見せるには限界があるので、引き出し型とスライド式の可動壁で収納性を高めると同時に、それぞれの石が持つ特質や背景のようなものを編集して、実際にデザインに生かせるアプリケーションやバリエーションとして見せている。石とデザイナー自身が描く空間とを結合させる仕組みを志向した。


石のアーチは古典的だが、塊だからこそ生み出せるアールとその重々しさは、新しい素材では決して代え難い。一つ目の上向きのアーチは引き出しのカウンターを携えている。ブルーブラックに統一した空間は、色温度の高い、ミニマムスポット中心のライティングで、ほの暗いほこらで石が露出したようなイメージだ。石をシャープに見せ、その出合いに昂ぶりを添える。石の官能性を感じてもらいたい。


一方、もう一つの下向きのアーチはゲートであり、“結界”だ。くぐった先には、窓際で明るい打ち合わせスペースがあり、石の支配 する場から人間の世界に切り替わる。五反田の街も望める。アーチをかたどる石は沖縄の石灰岩で、空隙いわゆる「巣穴」がある状態を埋めずに、生の石の強さを残した。テーブルにはタモ無垢材の古材を天板に使った。とても落ち着いた風合いで、景色のいいこの席は個人的に気に入っている。

打ち合わせスペースの床と壁には同じ石種を使用。木材のように切り出しの向きにより木目・柾目のような異なる模様となる
打ち合わせスペースの床と壁には同じ石種を使用。木材のように切り出しの向きにより木目・柾目のような異なる模様となる

リアルを感じること

ヨーロッパの都市に行くと、ほとんどの空間の床は石で出来ていることを実感する。もちろん建築自体が石の文化ということもあるし、住宅などプライバシー性の高いところでは木も多く使われている。でも店舗も含めたパブリックな空間はたいがい大理石で、彼らの生活に根付いている。足先から石の持つフィーリングを常に得て、認知しながら生きているわけで、それは重要なことだと思う。その床がビニルタイルか大理石かでは、生き物として違う感覚を養っていくはずだ。人は、石の厚みだって計らなくても感じることができる。空間を考える人間としては、そういう部分に応えていかなくてはならない。


先日あるセミナーで、今の空間に美徳、つまり道義のある美しさを求めるという話に出合った。自分なりに解釈すると素材そのものの物質感、存在感を改めてデザインに採り入れようという動きに思えた。デジタルですべてを取り扱い、ものを見て、考える人たちが増えていく中、その反動かもしれない。ネット全盛の時代へ変わっても、むしろだからこそ、人は「リアルを感じること」を求めている。石という自然を前に、そんなことも頭に浮かぶ。
〈談〉

アーチ型に加工された石材が、塊としての石の存在感を醸しだす
アーチ型に加工された石材が、塊としての石の存在感を醸しだす

いいじま・なおき/インテリアデザイナー
1973年武蔵野美術大学造形学部卒業。76年からスーパーポテト在籍。85年飯島直樹デザイン室設立。2004年~14年社団法人日本商環境設計家協会理事長。08~14年KU/KANデザイン機構理事長。11~16年工学院大学建築学部教授。著書に「飯島直樹のデザイン『カズイスチカ』臨床記録 1985-2010」(2010年)など。

松下産業株式会社

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