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「スマイルズ」に見る、クリエイティブ・チームにおける個人の働き方

2019.04.04 | REPORT

2019年2月13日、東京・有明の東京ビッグサイトで行われた「第87回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2019」の「第5回LIFE×DESIGN」において、商店建築セミナーが開催された。セミナーテーマは、「スマイルズが考える、これからのブランディング戦略、空間づくり、クリエイティブ事務所の在り方」。個性豊かな直営店から、チャレンジングな新業態の開発などを展開するクリエイティブ企業「スマイルズ」のキーマンが、そのエネルギーの源である人材と働き方について語った。

セミナーでは、スマイルズ 取締役 クリエイティブディレクターの野崎亙氏、同アートディレクターの木本梨絵氏が登壇した。まず、これまでスマイルズが携わったプロジェクトが紹介された。スマイルズは現在、飲食店の「スープストックトーキョー」やセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、海苔弁屋、ネクタイ専門店など多彩な9つのブランドを展開している。



スマイルズ 取締役 クリエイティブディレクター 野崎亙 氏
スマイルズ 取締役 クリエイティブディレクター 野崎亙 氏


スマイルズ アートディレクター 木本梨絵 氏
スマイルズ アートディレクター 木本梨絵 氏


ファミリーレストラン「100本のスプーン」のあざみ野店では、子供たちと一緒になって公園や建物をつくっていくプロジェクトを実施。このプロジェクトは公園をつくることが先にあるのではなく、家族連れが多い同店のニーズを踏まえ、そこに生まれる生活者の営みを醸成する場所をつくることを目的にスタートしたという。



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「子供を子供あつかいせずに、一人のプロジェクト参加者として接して、その計画のプロセスを大事にしたいと考えました。最終的に完成した公園が、普通の公園になったとしても、プロジェクトに携わった子供たちにとっては特別な場所になる。何をつくるかよりも、どんなシーンを生み出したいかということは、スマイルズの店や空間づくりにおいて大切なスタンスです」(野崎氏)



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また、このプロジェクトを主に進行したのが、同社の広報担当というのも興味深い。同社では、広報も営業担当もディレクターも、自分の部署を越えて新しい仕事や、チャレンジしたいことを実践し、社員でありながら、社内ベンチャーとして店舗のオーナーを務める人材もいる。



続けて、昨年末に東京・六本木にオープンし話題を呼んでいる「文喫」が挙げられた。同店舗は、入場料1500円を払って利用できる本屋。スマイルズが、日本出版販売と共に企画に携わり、コンセプト開発から空間やツールのデザインまで手掛けている。


「本と出会うための本屋」をコンセプトにした店内は、本棚やギャラリースペースの他、集中して本を読める閲覧室、ミーティングに活用できる研究室、ゆったりと本を読める喫茶室が広がり、コーヒーとお茶はフリードリンクになっている。また、店舗のつくりも独特で、元は本屋(青山ブックセンター)であった空間をスケルトンにし、それよりも更に昔のテナントの空間の“記憶”を残しながら、本に出会うための場づくりが試みられた。



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ビジネスモデルが構築されるまでさまざまな試行錯誤が繰り返される中、一番最初に出来たのはロゴデザインだったと木本氏は語る。「文喫とBUNKITSUという文字をロゴとしてつくりました。一般的なフォントをベースにしながら、漢字の留めはねにに英字の要素を少しだけ加え、反対に英字には漢字の要素を加えています。この店舗は、本屋という一般的な業態をベースにしながら、そこに喫茶というこれも一般的な業態を組み合わせることで、新しい業態になってます。その在り方を表現したいと考えました」(木本氏)



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「この店舗に限らず、ユニークネスの本質は、普通✕普通にある。そして、文喫は本屋✕喫茶店ではなく、本に出会うための専門店だと考えました。訪れた人が本に出会って、本に恋するような場所をつくる中で、本屋と喫茶店というベーシックな業態が自然と空間に落とし込まれていきました」(野崎氏)


野崎氏がスマイルズ側のプロジェクトリーダーとして動きながらも、他のスタッフがその店に求められるものが何かを模索し、自発的にその要素を生み出していく姿勢は、一般的な企業ではなかなか育むことのできないものだ。



スマイルズのディレクターの採用や人材育成について、野崎氏は次のように語る。
「これでいい、ではなく、これがいいを追求できる人材を求めています。また、自分の仕事に対して考えることや、誰かが困っていたら率先して助けることを厭わないことも大切。問題を自分で探して、答えを探すような、仕事を自己生成できる人と働きたい。弊社ではさまざまアウトプットの形がありますが、このマインドは一貫しています。また、各スタッフに仕事を振る際、やるべき事ややりたい事ではなく、その人が得意な事を意識しています。得意な事とは、これだけは譲れない、他に負けたくないというものの事。それが個人の特徴であり、得意な事を刺激してあげるような仕事を担当させることが、プロジェクトのモチベーションにもつながるのではないかと思います」それに対して木本氏は、「自分なら応えられるという期待値を持って担当をさせてもらっているのが分かるので、やる気が出る」と話す。



企業の縦割りの組織や、分業的に仕事をするなかでは、一つのプロジェクトにおいて自分の立ち位置や他の担当者の領分のようなものを意識し、境界を越えて手を出さないケースも少なくないだろう。しかし、仕事の本質は、何を求められ、何を生み出すかであり、クライアントにとってかけがえのない一つのプロジェクトを、素晴らしいものにするためには、クリエイター側の組織や個人の都合は二の次だ。スマイルズのような、プロジェクトをやり遂げるためにスタッフが自分のできることをすべてやりきる姿勢が、価値のあるアウトプットにつながる一因となるはずだ。

ビジネスガイド社

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