Loading...

id+ インテリア デザイン プラス

インテリアデザイン・建材のトレンドを伝えるメディア Presented by 商店建築

スモール・スペース・デザインの心得
二俣公一/ケース・リアル

2016.08.08 | INTERVIEW

絶対的に小さい、コンパクトな空間。ある一室だったり、ニッチやコーナーという部分でなく、それ自体で完結している小空間、実は店舗に特有のものだ。むしろ小さいことで店としてのメッセージやスタンスが明確になったり、客とのコミュニケーションが濃密になるなど、商業としては必ずしもデメリットだけではない。

しかし、小さくても店舗としての機能を完結させるうえで、家具や設備なども当然必要になる。設計上の配慮もより細やかでなければならない。福岡を拠点に店舗のイテリアや住宅設計などで活躍するケース・リアルの二俣公一氏に、省スペースの店舗を設計時に心掛けている点などを聞いた。

小さいからこそ精度を高める

店舗のインテリアだけでなく、住宅の設計やプロダクトデザインも手掛けることが多いです。自分の中では建築だから、インテリアだから、プロダクトだからという線引きはあまりなくて、それぞれの条件や環境に応じた、ベストなデザインアプローチというのを導き出して、答えていくという姿勢でやっています。たくさんあるだろう選択肢の中からベストを導き出すために、機能や動線などは自分なりに相当にロジックを詰めていくので、例えばプランについては結果的にシンプルなものになることが多いです。また特にプロダクトをやっているためか、デザインの精度も求める志向にあります。いわゆる納まりやディテールにこだわっていくので、設備類についてはサブに留まってほしい、黒子に徹してほしいと思うわけです。デザイン上、主役となる意匠や造作と同時に、そうした“黒子”を制御することは、自分にとっては必須条件で、これは空間の大きさにあまり関係ありません。


しかし、設備類をスマートに処理しようと考えると――特に小さい空間では――どうしてもコストの問題が出てきます。ですからクライアントへの説明は最初にかなりしっかりとやります。見積もりが出て、そういう費用について疑問を持たれることはありません。幸いに直接ご指名をいただいて仕事をすることが多いので、このデザインには必要なんだ、ということをご理解いただけています。


空間が小さいとどうしても目に届くものが増えてしまいます。情報が多くなってしまうことになる。先ほどのデザインの精度という話で、僕は細かな部分まで考えないと気がすまないたちなので、粗みたいなものは残したくない。わずかなことでも影響を与えるので、そこはしっかりと考えるようにしています。

設備は現場の意見を聞く

そのためにどうするか。一つは、オリジナルでつくってしまうことです。例えばダウンライトでも、今は比較的安価にカスタマイズや特注をしてもらえるメーカーもありますので、汎用的な性能でいろいろな場所で使えるものをつくっています。トリムやコーンを自分のデザインに合うようにするだけで、不用意な存在感はなくなります。家具も飲食店であれば、大抵つくるようにしています。既製品でも優れたものは無数にありますが、空間が限られているからこそ、デザインを起こし、ジャストフィットさせる意味は大きくなります。


もう一つは、多くのデザイナーがやっていることだとは思いますが、既存のものでもなるべく隠したり、配置を整えたり、色を塗ったりすることで、存在感や余分な情報を減らすことですね。あえて視覚的に意味を持たせて全体のデザインの一部に見えるようにすることもあります。消したり隠したりすることだけに捕らわれないことです。


15坪しかない美容室「ブルース」(2012 年 )。ケーブルラックや空調機、ダクトなどは意識的に色を揃えて、デザインの一部として自然に見えるようにした。仕切りのない空間の流れをつくる要素としても機能させた。
15坪しかない美容室「ブルース」(2012年)。ケーブルラックや空調機、ダクトなどは意識的に色を揃えて、デザインの一部として自然に見えるようにした。仕切りのない空間の流れをつくる要素としても機能させた。


また、現場の設備担当の人ともよく話すようにします。図面にはなかなか出てこないような部分や、できることできないこともわかりますし、現場の意見を反映しないと収まるものも収まらないので。商業施設のテナントであれば、店舗区画内に来る配管や配線、防災設備などをどこまでアレンジできるか、極力調整して要望を出しています。内装監理室の担当者にあきれられたこともあります。

積み上げていくデザイン

一例ですが、「日本號」(商店建築 16年4月号掲載)という、業態としてはスナックなのですが、小さなU字カウンターがあるだけのわずか6坪のお店を手掛けました。カウンターに合わせた下がり天井を設けています。もちろんデザイン的な効果を意図しているのですが、天井の内部に空調機やスピーカーを収めて、壁際のスリットから吸排気をしています。天井面に出てくる、僕らとしては最もやっかいな吹き出し口の存在をなくしています。ダウンライトは懐を利用して17cmほど掘り上げた穴の奥に少しレトロ感のあるボール球を配しています。もちろんグレアは感じませんが、あえて逆に光に存在感を与えています。


「日本號」は9席のカウンターだけのスナック。スタッコを吹き付けた下がり天井は、設備類を隠すだけでなく、コミュニケーションの密度を高めることに寄与している。
「日本號」は9席のカウンターだけのスナック。スタッコを吹き付けた下がり天井は、設備類を隠すだけでなく、コミュニケーションの密度を高めることに寄与している。


ここはママとのコミュニケーションが店舗の体験として重要な要素なので、それを中心に考えたときに、空間がどうあるべきかということを徹底してデザインしたわけです。古き良きスナックの雰囲気も取り入れつつ、現代的な佇まいを持たせています。


最初に述べたように、考え抜いたプランがしっかりと機能するようにディテールまでつくっていくやり方は、店の規模に応じて変わることはありません。状況に応じてメリハリをつけるようなことはしますが、キャッチーさや派手なデザインというものは自分からは遠いものだと感じています。細かいところから積み上げていくデザインという言い方ができると思います。だからこそ、コンパクトで自分の目が届きやすい空間が合っているのかもしれません。

二俣公一
ふたつまた・こういち/空間・プロダクトデザイナー。1975年鹿児島生まれ。1998年九州産業大学工学部建築学科卒。2000年ケース・リアルを福岡に開設。2013年オブジェクトデザインに特化した「二俣スタジオ」も設立。主な仕事に「イソップ 札幌ステラプレイス店」(16年7月号)、「TSUMONS」「海のレストラン」「鈴懸本店」など。

RELATED ISSUES

一覧に戻る

PAGETOP