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商店建築増刊「DENTAL SPACE DESIGN」発売記念セミナー レポート

2019.01.28 | REPORT

商店建築増刊『DENTAL SPACE DESIGN』の発売を記念したセミナー「デザイナー・橋本亮介さん(オジデザインワークス)が語る医療空間デザインに求められること。」が開催された。

2018年12月、東京・二子玉川の蔦屋家電で、商店建築増刊「DENTAL SPACE DESIGN」の発売を記念したセミナーが開催された。同誌は、矯正歯科や審美歯科を始めとする多様な歯科医療空間40事例の他、院長や設計者の対談や、歯科医療空間設計のポイントなどが収録されている。


セミナーに登壇したのは、同誌でも複数の事例が紹介されているオジデザインワークスの橋本亮介さん。飲食や物販店、商業施設全般の空間デザインを幅広く手がける中で、特に歯科医院を始めとした医療空間づくりに数多く携わっている。橋本さんの空間デザインの事例と、その考え方を通して、これからの歯科医療空間の未来、可能性を示唆するようなトークが展開した。



初めに、橋本さんが医療空間づくりに携わるようになったきっかけや、その背景が語られる。橋本さんはクリニックを中心に、多彩な商業空間を手がけるジョイントセンター出身であり、先輩にはインテリアデザイナーの小泉誠氏などがいて、「原兆英さん(ジョイントセンター代表)や小泉さんの活躍を見ながら、自分が追求していきたいと思える分野を模索してきた」と話す。兄弟子の小泉氏が家具をメインに独自の空間づくりを行う一方で、橋本さんは商業を舞台としながら、徐々に歯科医院の仕事が増えていく。
「ジョイントセンターに所属している時は歯科医院を手がけたことはありませんでした。ただ、30歳までに人生を通して突き詰めていくものを決めたいという思いと、妻が歯科衛生士であることも重なり、独立後に設計した歯科医院をきっかけに増えていった」と橋本さん。



橋本さんが歯科医院を手がける上で大切にしていることはCS(顧客満足度)とES(従業員満足度)。「歯科医院の施主やユーザーのニーズが多様化する中で、その求めるものに応えることを第一としている。出来上がる空間は私の作品ではなく、あくまでも施主のビジネスの場所であり、経営を成り立たせて、投資を回収できる空間デザインでなければならない」と話す。橋本さんがデザインする歯科医院は、都心のビルの一画から田畑の中に建つ1軒家まで、その与件は多岐に渡るが、一概に「これがオジデザインワークスのデザイン」というものは存在しないという。「1件ずつ時間をかけてつくっていく。特にそこで働く人々のための環境づくりは入念に取り組む。それはESを高めることが、CSを高めることににもつながるからだ」と橋本さん。



続いて、「歯科医院ができるまで」をテーマとして、橋本さんの仕事のプロセスが開陳された。「歯科医院は、どこかに利用者の不満があると、それが“被害者意識”につながってしまうような特殊な空間」であると話し、「小さな不満を取り除いていくことに注力しながら、同時に感動を与えて、その医院のファンになってもらうことが大事」な場所であると言う。



橋本さんがプロジェクトを手がける上で進めていくステップは、まずは施主の要望を聞くが、言われたデザインをそのまま実現するわけではないことを施主に理解してもらう所はら始まる。多くの場合、「○○のような空間にしたい」という要望は“結果論”であり、なぜその空間になったかの“方法論”ではないという。施主が何を求めているか、その医院で何を実現したいかをじっくりと探っていくことを大事にしている。



次に、施主の持つ技術や提供するコンテンツ、モチベーション、施主のおかれた立場や業界の状況を明確にしながら、ブランディングの方向性を決めていく。そこでは「○○先生に合うものをつくりますが、○○先生の好きなものはつくれないかもしれない」ということをきちんと伝える場合がある。つまり、施主の好きなものと、ユーザーに受け入れられるものが必ずしもイコールではないということだ。



そこからようやく空間のイメージづくりが始まり、まずは橋本さんが手書きで描いたスケッチ、そしてパース、プランといった段階を踏みながら、施主とのやりとりを交えながら空間が立ち上がっていく。「仕上げ素材や証明については、いつも協業するグラフィックデザイナーや照明デザイナーと一緒に意見を出し合いながら決定していく」という点は特徴的だ。



橋本さんは、近年の医療空間のデザインと、次世代空間づくりについて次のように話す。
「ここ10年ほどの医療空間デザインのニーズは、自由診療としていかに利用してもらうかがポイントとなっていて、ホテルのような高級感のある空間づくりが多く求められてきた。しかし、近年、対照的にカジュアルでラフな雰囲気の空間が増えてきている。これは健康な人でも医療を受けて長くその状態を維持していくという意識が浸透していることが背景にある。この考え方は、海外では一般的だが、日本ではあまり意識されてこなかったことだ」



この医療空間デザインの潮流の先に、単純な高級感などとは違う、「日本独自の、日本らしい医療空間が生まれてくるのではないか」と橋本さんは期待感を滲ませる。「医療空間はビジュアルも大切ですが、良い医院は結局、口コミで広まっていく。良い医師やスタッフがいる医院が、良い医院であり、働く環境づくりはとても重要だ。施主や空間の使い手の立場に立って、本当に求められる医療空間を突き詰めていった先に、新たな医療空間デザインが生まれていくと思う」と自身が手がける仕事の未来を語った。


『商店建築』増刊「DENTAL SPACE DESIGN」は、こちら ⇒

デンタル表紙画像

DENTAL SPACE DESIGN

2018年12月1日発売
定価 ¥9,720

患者のニーズが多様化するにつれ、歯科医院にもさまざまな空間デザインが求められつつあります。本書では、矯正歯科や審美歯科、小児歯科、予防歯科、歯科技工所まで、さまざまな歯科医療空間を40事例収録。


橋本亮介(はしもと・りょうすけ)/オジデザインワークス
1973年生まれ。原兆英、原成光両氏(ジョイントセンター)に師事。
2002年オジデザインワークス活動開始。
建築家、インテリアデザイナー、グラフィックデザイナー、Webデザイナー、スタイリスト、コーディネーターのチームアプローチによるイメージ戦略、ブランドコンサルとして、レストランやアパレルブランド、ホテル、アミューズメント、クリニックなど商業施設を中心としたデザイン活動を行う。

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