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神田慶太さんと前原康平氏に聞く、素材と空間との関係性

2018.11.05 | INTERVIEW

ファッションやインテリアのみならず、自動車や航空機の内装などに高感度・高機能マテリアルとして使用される東レのスエード調人工皮革「Ultrasuede®」。今回は、専門店やカフェなどの空間設計から、プロダクトデザインまでを手掛けるphyleの神田慶太さんと前原康平さんに、素材と空間との関係性について迫った。

プロダクトデザインが空間に影響する

神田慶太さんと前原康平さんは、店舗や住宅の空間デザインを手掛けるphyleを主宰する他、プロダクトブランドBP.も展開。空間とプロダクトを両軸としたデザイン活動を行っている。前原さんは、自身のデザインへの考え方についてこう語る。

前原 ー「基本的なマテリアルは、実は原始的なものしかなく、木や石、布、金属がほとんどです。それをどう扱うかがポイント。日々、さまざまな事柄に素直に影響を受けながらも、流行りに流されない空間やプロダクトのデザインを心掛けています」

空間デザインから、この世界に入ったという二人にとって、当初、プロダクト制作は、オリジナリティのある空間にするための手段として始めたものだった。

前原 ー「僕らは知り合った当時からアートが好きで、きらびやかな意匠にではなく、シンプルな空間に強い彫刻やオブジェが置かれている様な雰囲気に魅力を感じていました。その感覚は今でも残っていて、空間をデザインしていると、別に突飛なプロダクトを求めていないのに、既製品にこれと思えるものが見つからない時があります。そこで、照明やドアノブ、棚受けなどオリジナルのものを加えてみる。すると自分達のイメージにぐっと近付き、デザインのクオリティーも一段上げることができるんです」

プロダクト制作を行ってきたことが、逆輸入的に空間設計にも良い作用をもたらしている。

空間の見せ場にマテリアルを 大きく入れ込む

phyleは、化粧品ブランド「OSAJI」の店舗デザインを通して、ブランディングに関わってきた。2016年末にオープンした1号店の谷中店を皮切りに、全6店舗の設計を手掛け、全ての空間においてプロダクト制作で培った技術が踏襲されている。

化粧品ブランド「OSAJI(オサジ)パルコヤ上野店」の店内を見通す
化粧品ブランド「OSAJI(オサジ)パルコヤ上野店」の店内を見通す

神田 ー 「緑や紫など商品のボトルカラーが映えるように、全店舗でグレーや白のモルタル、木、真鍮という三つのマテリアルをベースとし、店舗ごとに少しずつその組み合わせを変えています。例えば、パルコヤ上野店では、突き板を均等の細さに切り分け、それを再びランダムに貼り直したパネルを壁面と家具に用い、他の店舗でも空間の見せ場としてしっかりとつくり込んだマテリアルを大きく入れ込むようにしています。そうすることでマテリアルの強さを押し出し、同時に照明や棚受けなど細部にも散りばめることでデザイン的なバランスを取っています」

店舗のデザインはグレーや白のモルタル、木、真鍮という三つのマテリアルをベースとし、照明や棚受けなど細部にも要素を散りばめている
店舗のデザインはグレーや白のモルタル、木、真鍮という三つのマテリアルをベースとし、照明や棚受けなど細部にも要素を散りばめている

空間を柔らかに包み込む 東レの「Ultrasuede®」

今年11月、「地域との深いつながりから生まれる素敵な関係」をコンセプトに東京・上野に誕生する「NOHGA HOTEL」。そのオープンに先立ち、台東区が運営する次世代のクリエーターを育成する拠点「台東デザイナーズビレッジ」の体育館で開催されたレセプションでも、マテリアルと真摯に向き合ってきたphyleならではの仕事がなされている。そして、その会場構築のメインとなるマテリアルとして採用したのが、東レのスエード調人工皮革「Ultrasuede®」である。

神田 ー 「ここでは、会場全体を柔らかな雰囲気で包み込む空間を目指しました。レセプション会場が体育館だということをあえて感じてもらうため、天井を塞がずに高さ2400㎜、幅5000㎜の巨大なパネルを3方向に立て、緩やかに囲っています。一枚一枚のパネルは、湾曲させてボリューム感を出し、淡いブラウン調のUltrasuede®で覆うことで柔らかさを演出しました。」

phyleが会場デザインを手掛けた「NOHAGA HOTEL」レセプション会場全景。「台東デザイナーズビレッジ」の体育館で開催された
phyleが会場デザインを手掛けた「NOHAGA HOTEL」レセプション会場全景。「台東デザイナーズビレッジ」の体育館で開催された

パネルは淡いブラウン調の東レのスエード調人工皮革「Ultrasuede®」で覆い、会場全体を柔らかな雰囲気で包み込む演出をした
パネルは淡いブラウン調の東レのスエード調人工皮革「Ultrasuede®」で覆い、会場全体を柔らかな雰囲気で包み込む演出をした

phyleの二人は、普段から空間を設計するだけでなく、施工会社や職人と共に自分達も施工に当たっている。このレセプション会場も、自らが手を動かし、設営していったという。

神田 ー 「スプレー糊で一枚一枚パネルにUltrasuede®を貼っていったのですが、その際、生地と生地が合わさる部分をどうするかが課題でした。生地同士をオーバーラップさせると、どうしても、その部分だけが膨らんでしまいます。また、一般的に生地の小口を合わせると、分け目で線が出てしまいます。トライするつもりで小口を合わせて貼ってみたところ、すんなりと馴染み、ジョイント部も目立たず仕上げることができました。伸縮性があり、貼りやすいだけでなく、光との相性も良かったです」

Ultrasuede®を貼り合わせた展示什器近景。「小口処理をすることなく、ジョイント部を自然に仕上げることができた」と前原さんは語る
Ultrasuede®を貼り合わせた展示什器近景。「小口処理をすることなく、ジョイント部を自然に仕上げることができた」と前原さんは語る

前原さんもUltrasuede®の印象と可能性について、こう付け加える。

前原 ー 「もともとスエードは好きなのですが、なかなか気に入ったものと出会えないでいました。Ultrasuede®は質感がとても上品なので、ショーケースや小物入れの台座、また、プロダクトのマテリアルとしても使ってみたいですね。革のような小口処理や磨きの必要もなく、カットしてそのまま使えるのもメリットだと思います」

これからも二人は、マテリアルが持つ秘めた力を存分に引き出しながら、phyleならではのものづくりを続けていくことだろう。


Ultrasuedo®は東レ(株)の登録商標です。

phyle
神田慶太(左) 前原康平(右)。神田氏は内装設計施工会社を経て、前原氏は乃村工藝社/A.N.D.を経て、2013年phyleを設立。飲食店やヘアサロン、住宅などの設計や施工を手掛ける。また、プロダクトブランドBP.も展開。大量生産された工業製品を利用したハンドメイドプロダクトも手掛けている。近作に、カフェ「Hocus Pocus」(17年11月号)やシェアオフィス「NewWork 自由が丘店」(16年11月号)など

東レ ウルトラスエード事業部

  • TEL. 東京支社 03-3245-5401 / 大阪本社 06-7688-3373

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