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商店建築セミナー「これから集客できるコンテンツは、賑わう『食』環境だ!」開催

2018.10.04 | REPORT

2018年9月4日、東京ビッグサイトで行われた「第86回東京インターナショナル・ギフト・ショー 秋2018 LIFE×DESIGN」において、商店建築社が共催するセミナーが開催された。テーマは「これから集客できるコンテンツは、賑わう『食』環境だ!」。リックデザインの松本照久氏と、カームデザインの金澤拓也氏が登壇し、カフェやダイニング、フードホールの空間コンセプトとデザイン戦略に関連する話が展開した。

セミナーの冒頭、ファシリテーターを務めた月刊商店建築の編集長・塩田健一は、食の環境をテーマに、松本氏と金澤氏を迎えた理由について次のように話す。



「月刊商店建築で毎月飲食店を取材する中で、ここ数年感じることが、お客さんの気持ちが変化してきているということ。お店のメニューだけでなく、空間や環境、楽しい時間に価値を感じているように思います。商店建築でもフードホールや複合型の書店など店の集合体が生む環境づくりに魅力がある事例が増えていることから、今回のセミナーのテーマとしました。フードホールを取り上げるならば、今、フードホールのデザインを最前線で手掛けているリックデザインの松本さんに話を聞きたいと考えたのがきっかけです。松本さんに一緒に登壇したいデザイナーはいるかを聞くと最初に名前が挙がったのが、カームデザインの金澤さんでした。金澤さんも商店建築ではいつも取材をさせていただいています。この二人に話を聞けば、今の食環境に求められているものが見えてくるのではないでしょうか」



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リックデザインの松本氏は、事務所設立から40年が経った現在も、日本の飲食店デザインを牽引するデザイナーだ。最近では、多様化するニーズに応えるフードホールなど、最新の商業施設でも企画から空間づくりまで多岐にわたり携わっている。



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一方、カームデザインの金澤氏は、インテリアデザイナーとして活躍する傍ら、自身でも飲食店を経営している。デザイナー、経営者それぞれの視点からつくられる店は、ソフトとハードの両面で高いクオリティーを持ち、人気の業態をいくつも生み出している。



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セミナーは塩田編集長からの問いに、両者が応えていく形で、それぞれが手掛けた事例を見ながら進められた。



最初の問いは「飲食の担う役割が変化してきていることをどう感じているか」。その問いに対して松本氏が示した事例が、大阪の梅田にある「EST」のリニューアル。同施設は、電車の高架下に広がる複合商業施設で、松本氏が携わったリニューアルにより、飲食業態を中心とした空間に生まれ変わった。
「ESTの周辺にはファッションを主体とした施設が多く、多くの人で賑わっているが、EST自体の売上げはピーク時の半分にまで下がっている。このエリアで食をテーマとした空間をつくることで、ファッションと文化、食が一体となった付加価値のある場をつくることを目指した。空間デザインは、イベントスペースや飲食用の共用客席を各所に設けることで、食事をする場所というよりも、時間や場所といったコトを楽しむ場所となっている」(松本氏)



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また、金澤氏が示した事例が、運営からデザインまで手掛けたダイニング「グッドスプーン 南堀江店」。
「近年、多様な飲食の業態が増えると同時に、ランチの時間がクイックになってきている印象がある。食事だけでなく、ゆっくりと時間を使ってもらえるような店舗にしたかった。100席の空間で単価は1500円。平均滞在時間は90分ほどで、ゆったりと利用されるお客さんが多い。飲食では食事が美味しいというだけの時代は終わって、食・環境・時間すべてに価値が求められるようになっている」(金澤氏)
金澤氏はインテリアデザイナーとして17年のキャリアがあり、飲食店経営を始めたのは8年前。現在では14店を経営するに至り、インテリアデザインとあわせてメニュー開発などのプロデュースも手掛けているという。



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続けての問いは、「何を起点に賑わう食環境を構築していくか」というもの。



松本氏からは東京ミッドタウン日比谷にある「HIBIYA FOOD HALL」が提示された。このフードホールは、大きなひとつながりのフロアに8つの業態が点在している。
「ニューヨークスタイルのフードホールのデザインを取り入れながら、日比谷の歴史ある建物のクラシック感を生かし、そこに最新の商業施設に連動した時代をリードするモダンさを表現した。日比谷の街の歴史など、プロジェクトのバックボーンとなる要素、その土地ならではの要素を取り込むことは、どのプロジェクトでも意識している」(松本氏)
地下フロアで、地上の道路の下にあたる箇所では、本来、客席を設けることはできないが、行政と交渉してHIBIYA FOOD HALLでは特例で共用の席が設置されている。従来であれば、ただの広い通路となっていた場所に人が溢れ出すような空間となり、フロア全体の賑わいや活気の源になっているのが印象的だ。



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他方、金澤氏はおいしいコーヒーだけでなく、いかに時間を楽しむかをテーマにしたカフェ「GOOD SOUND COFFEE」を紹介。
「音とコーヒーをコンセプトに、テーブルの下にスピーカーを仕込んで、体に音がまとわりつくような空間を演出している。スターバックスのようなコーヒーショップが増えているが、ユーザーが少し飽き始めているような気がする。ここでしか味わえない時間を楽しめる環境づくりが求められるようになるのではないか」(金澤氏)



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その後、「ロケーションをどう活かすのか」「世界観やテーマをどのように考えるか」といった問いが続き、公園の緑や屋外の心地良い環境を取り込んだ「グッドスプーン ジョーテラス」(設計/カームデザイン)、「Mr.FARMER 駒沢オリンピック公園」(設計/リックデザイン)、また来年10月にオープン予定の横浜の客船ターミナルに隣接した大型商業施設「ハンマーヘッド」(設計/リックデザイン)などが紹介された。



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最後の問いとなったのが、「どんな食の環境なら、飲食店オーナーが出店したいと思うのか」。



金澤氏は「阪急西宮ガーデンズ フードホール」を見ながら次のように話す。
「このフードホールでは通路をあえて直線的にせず、各店の食材のディスプレイをいい意味で“雑多”に見せています。サインや細かいデザインルールでホールとしての一体感は持たせつつ、“きれいに見せない。美味しく見せること”に主眼を置きました。単なる箱のような商業施設には飲食店オーナーは魅力を感じなくなっている。食を通じて時間を楽しみ、風景を楽しむような、食がレジャーとなり得る環境が求められている」



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また松本氏は、阪神梅田本店の中にオープンした「スナックパーク」を挙げる。同施設は、大阪を代表する食を扱う店舗があえて狭い間隔で並ぶ、立呑みの場がひしめき合うような雰囲気が特徴だ。
「価格の安さ、美味しさに加えて“ダサくなくて落ち着く空間”が人の賑わいを生んでいる。祭の縁日のような空間です。美しい空間デザインも重要ですが、お店として成功するには、その立地で何の要素が賑わいを生むかを理解して環境づくりに取り込むことが大事」(松本氏)



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セミナー全体を通して見えてきたのは、日本各地で最新の飲食店デザインを手掛ける両者が、いずれも単純な綺麗さではない、雑多感や、人の賑わいに着目している点。また、飲食店デザインにおける「時間を楽しむ」というキーワードは重要なヒントとなるだろう。



セミナー会場にはデザイナーや店舗運営者、メーカーなど様々な業種の人が訪れ、現在の飲食店に求められる価値について新たな発見や、理解を深めるひとときとなったに違いない。

ビジネスガイド社

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