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オフィスにおけるキッチンの可能性を考える

2018.04.09 | INTERVIEW

効率的に働くためのオフィスから、コミュニケーションの場へ。
急速に変化するオフィス空間の核として期待されているのが「キッチン」である。
新しいオフィスの企画・設計を手掛け、自らもシェアオフィスを運営するオープン・エーの馬場正尊さん。
世界各国のオフィスを調査し、新しい働き方を提案するコクヨワークスタイル研究所の若原強さん。
リクシルでオフィスや商業ビルの水まわり空間のプランニングを行う石原雄太さん。
オフィス内キッチンを実践するオープン・エーのシェアオフィス
「Under Construction/Un.C.(アンク)」で3者に話を聞いた。

キッチンの求心力をオフィスに生かす

石原 ー 今当社では「ジェンダーニュートラル」なトイレ空間の開発をきっかけとして、オフィスでのコミュニケーションの場に着目しています。トイレの場合、男女共用化などによってつくり出したスペースを、コーヒーブレイクやプライベートも含めたお喋り、スマホを操作する場として提供することで、オフィス内コミュニケーションの場となる可能性が考えられます。そこで今後は、オフィスにあるもう一つの水場「キッチン」について、コミュニケーションの場としての可能性や、そのために必要とされる機能、賃貸でもオフィスキッチンは可能なのかなどを見出して行きたいと思っています。


馬場 ー 今のところ大半のオフィス内キッチンは「給湯室」と呼ばれるような最低限の設備と面積で、端っこのバックヤード的な空間にありますよね。一方、オープン・エーのシェアオフィスでは、大きなオープンキッチンを真ん中に配置しコストも最も多く掛けました。実は、このキッチンの前例として、賃貸オフィスビル「Public in Office(パブリック イン オフィス)」の企画があります。ビルの各フロアに色々なテーマを持たせるプロジェクトで、オフィスに大きなキッチンを置いたプランをつくり、賃貸オフィスとしてテナントを募集しました。「クックパッドのような企業が入ったらいい」と言っていたら、すぐに反応があって、実際に関連会社が入居しました。これを見て、賃貸オフィスにもオープンキッチンを導入したいという要望が急に増えました。


若原 ー 企業の中で、給湯室や喫煙室といったオフィスの端っこにある空間が重要な役割を果たしてきたと感じます。企業にとって大切なことの一つは組織の柔軟性ですが、“Who Knows What”(=これは誰に聞けばわかるのか)が組織全体で共有されているだけで、その柔軟性は格段に上がると言われています。そうした情報は会議室ではなく給湯室や喫煙室でやり取りされていたケースも多く、オフィスキッチンはそれに変わる新たなコミュニケーションスペースとして注目されています。


馬場 ー その通り、企業にとって本当に重要な会話や意思決定の大半は、会議室ではなく、喫煙室や給湯室、トイレなどで行われてきたのが現実でしょう。そうしたオンとオフの中間的な場所の価値が認められ始めていると感じます。住宅も同様で、昔の台所は家の隅にありましたが、今はキッチン・ダイニングを中心にしてプランが展開されていく。井戸端や囲炉裏、茶室が昔からのコミュニケーション空間だったように、水や火のまわりでは、ちょっと気が緩んだり、打ち解けたりして、情報交換に適した場所だった。お互いのバリアを解く何気ない瞬間こそ、本質的な会話が行われているのではないでしょうか。


「Public in Office」は、オープン・エーが企画設計を手掛けた賃貸オフィスビル。パブリックな要素をオフィスに加え、仕事のモードや働き方を変えることをコンセプトにした。オフィスの中心にキッチンを設けたフロアには、「おいしい健康」が入居する(撮影/森田純典)
「Public in Office」は、オープン・エーが企画設計を手掛けた賃貸オフィスビル。パブリックな要素をオフィスに加え、仕事のモードや働き方を変えることをコンセプトにした。オフィスの中心にキッチンを設けたフロアには、「おいしい健康」が入居する(撮影/森田純典)


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2007年竣工の「THE NATURAL SHOE STORE 東京オフィス」では、水路に面した東京・勝どきの倉庫を改装し、キッチンとバーカウンターを取り入れた。現在、オフィスは移転している
2007年竣工の「THE NATURAL SHOE STORE 東京オフィス」では、水路に面した東京・勝どきの倉庫を改装し、キッチンとバーカウンターを取り入れた。現在、オフィスは移転している


石原 ー 当社でも働き方改革に伴い在宅勤務が増え、スタッフが顔をそろえる時間も減りました。普段からのコミュニケーション不足もあり、いざ会議を開いても発言が出にくいことを実感します。今までの画一的なオフィスでは、活発に意見を交わし、良いアイデアを出し合うことが難しくなっていると思います。


馬場 ー オフィスに求められることが変化しています。100年程前まで農家や商家は職住一体が基本で、仕事場と家庭はひと続きでした。近代以降、職と住が分離して家から会社に通勤するようになると、最も効率的に事務処理を行うための「official(公式)な場=オフィス」が発展しました。私語や個人的な行為はご法度で、与えられたルーティーンを正確にこなすことを求められてきました。しかし現在、オフィスですべきことは、多様な人達とコミュニケーションをとることに変わりました。求められるのは、新しい企画を見出し、問題解決の方法を発見することです。事務作業は在宅勤務やアウトソーシングで行えば良いし、将来はAIが担うかもしれない。オフィスは多様な交流の受け皿となる必要があります。


若原 ー 今、オフィスにとって大切なテーマの一つに「遠心力と求心力」があります。在宅やカフェ、コワーキングスペースなど仕事場が多様化すると、オフィスから人が離れる「遠心力」が強くなっていく。オフィスでのコミュニケーションが大切と呼びかけても、なかなか自発的に集まるのは難しい。そこで「求心力」を高める手段として、社員食堂でおいしい料理を提供したり、居心地の良いカフェを設けたりするケースが増えています。例えば最近、グーグルの社員から「出張先のニューヨークで最も美味しいステーキはグーグルのカフェテリアだった」という話を聞いたことは印象的でした。1日中外に出ていても、ランチの時間は会社に戻ってくる。食やキッチンによって自然と人が集まる場所づくりを、グーグル始めマイクロソフトやザッポスなど、各業界のトップ企業が行っています。


コクヨが展開するオフィス用家具「DAYS OFFICE」のドライキッチンを、トイレへの動線上に置いた事例。社員が必ず通るエリアにキッチンを設けることで、コミュニケーションを促すことを意図した(©KOKUYO CO., Ltd.)
コクヨが展開するオフィス用家具「DAYS OFFICE」のドライキッチンを、トイレへの動線上に置いた事例。社員が必ず通るエリアにキッチンを設けることで、コミュニケーションを促すことを意図した(©KOKUYO CO., Ltd.)


馬場 ー ピンタレストやドロップボックス、ツイッターなどのオフィスも、さまざまなタイプのキッチンを備えていますよね。このビルに入っている育児関連のIT企業では、毎日、オフィスキッチンに料理をつくる人が来て、健康的な食事を提供しています。僕らにも食べに来てくださいと声を掛けてくれ、キッチンを介した異業種交流が生まれている。他にも、大手ディベロッパーの人が釣った魚を持ってきて、調理したいからキッチンを使わせて欲しいということもありました。


若原 ー いざ、企業間交流をしようとなると色々制約もありますが、キッチンを介すことでその壁が一瞬にして消えてしまいますね。
企業戦略に直結するキッチン


馬場 ー 心地良さをテーマに輸入靴を扱う企業「THE NATURAL SHOE STORE(ザ ナチュラル シュー ストア)」のオフィスでは、勝どきの倉庫にガラスの巨大なキューブを置き、その中にキッチンやバーカウンターを設置しました。キッチンがあることで、レセプションパーティーを自社で開き、商談も行うようになり、営業がスムーズになったという声を聞きます。コーヒーを淹れながら話を進めると場が和み、ゲストとの壁が一気に低くなる。スタッフの快適性だけでなく、営業戦略とも直結した効果が出た例です。


若原 ー キッチンを導入する目的は、今後多様化しそうですね。社内コミュニケーションの活性化だけでなく、飲食の力で優秀人材を惹きつけて採用したり、取引先を社内に招き入れ、ホームグラウンドで企業コンセプトを示しながら商談したりというメリットも生まれそうです。


石原 ー その意味では、トイレ空間もポイントになりそうです。トイレとキッチンは今まで効率を重視した別々の存在でしたが、求心力という点では共通点があるのではないでしょうか。


若原 ー 今トイレでは、センサーによって自動的に健康チェックできる技術も実用化しつつあるので、例えばオフィスのキッチンで健康的な食事を取り、トイレで健康状態をチェックできれば、ウェルネスという点で結び付きます。健康を保つためにオフィスに行こうという動機付けになりますね。


馬場 ー 健康は大切なテーマです。今の若い世代は健康に対して関心が高いので、会社で食事を取り、健康的に働いてくれれば経営者判断としても有益です。会社の飲み会や社員旅行が敬遠されがちな昨今、社員の福利厚生としても効果的でしょう。


若原 ー 当社のオフィス用家具「DAYS OFFICE(デイズ オフィス)」の事例で、水を使わない「ドライキッチン」をトイレへの動線に置いたオフィスがあります。給排水配管が不要なので置き家具の感覚で設置でき、弁当を温めたりお茶を淹れたり、休憩や食事を摂るスペースにもなります。これをスタッフが必ず通る、執務室からトイレへの動線上に置き、偶発的な出合いをつくることが目的の一つでした。オフィスのキッチンは、設置場所によって役割が大きく変わります。フロア間の動線や階段から見える場所に置けば、異なる部署間の交流を促すことができますし、ミーティングスペースの隣に置けば、会議の休憩場所となります。エントランスに置けば、ランチタイムや通勤の行き帰りに利用できて便利です。キッチンの配置やスタイルが、業態やブランドの在り方を示すことにもつながりそうです。


馬場 ー その意味でも賃貸オフィスを活性化するために、キッチンは大きな武器になると思います。オフィスの在り方が想像以上のスピードで変わるなか、飛躍する企業の大半は今までにないオフィスを持っていて、その中心には必ずキッチンやカフェがある。これまでは緊張を強いることが生産性と符合していましたが、今はそれが乖離していて、リラックスしたコミュニケーションから生まれる新しいことが期待されているし、クリエイティブで自由な企業がどんどん収益を上げているので、従来型の企業も適度な緊張と弛緩のバランスを持ったオフィスへと変化しなければならないでしょう。

オフィスキッチンの可能性

2017年2月にオープンした、オープン・エー運営のシェアオフィス「Under Construction/Un.C.」。「公園のようなオフィス」をコンセプトに、キッチンを中心に据え、日々実験をしていると馬場さんは言う
2017年2月にオープンした、オープン・エー運営のシェアオフィス「Under Construction/Un.C.」。「公園のようなオフィス」をコンセプトに、キッチンを中心に据え、日々実験をしていると馬場さんは言う


石原 ー 従来のオフィスは静かさが求められていましたが、仕事内容によって働く場所を選べるようになれば、オフィスにガヤガヤとした雑音があっても良いことになりますね。


馬場 ー シェアオフィス「アンク」を設計した時は、あまりに自由なプラン過ぎて、利用者から苦情が来るのではと正直心配でした。しかし、ここを仕事場に選ぶ人達は、お互いをうっすら意識することで、新しいアイデアが生まれることを期待しているし、適度なノイズがあった方が集中できるようです。キッチン周りでレセプションを開くこともありますが、今の所うるさいといった苦情もなく、利用者の飛び入り参加もあります。ここではそういった実験を色々して、発見や失敗をデザインにフィードバックしています。実践から生まれた発見を生かすことは気持ち良いし、提案にも説得力がでます。


若原 ー ここのキッチンは床から1段上がっていて、オフィス全体を見渡せるのが良いですね。キッチンの清掃や管理はどのように分担しているのですか。


馬場 ー シェアオフィスでは特に、自分がどういったポジションにいるのかを把握することが大切です。キッチンからは自然な流れで全体の動きを眺め、身体的に感じることができます。十数社あるバラバラの業種の人達全員が思いおもいに利用して、料理をつくったりパンを焼いたり、余った分は人に分けたりと、交流のきっかけづくりに役立っています。自分にとっては、社員に自然な声掛けをする場でもあります。コーヒーを淹れている隙に仕事の進行状況をさりげなく聞いたり、デスクにいる時よりも声をかけやすい。緊張を解いた状態なので、本音を引き出しやすいと感じます。清掃については基本的に業者に委託していますが、普段の手入れは使った人が自主的に行っています。オープンなことが、モラルの維持につながっているのかもしれません。


石原 ー トイレにも同様のことが言えそうです。トイレブースという個室に長時間こもって、スマホでプライベートなメールやSNS、ゲームなどで気分転換するよりも、トイレからの帰り道にふらりと立ち寄れるオープンなスペースがあれば、リフレッシュにもなり、コミュニケーションも生まれそうです。


若原 ー 当研究所でも、オフィスキッチンが注目を集める中、食そのもので得られるウェルネスなどの効果から、食が媒介となって生まれるコミュニケーション活性化などの効果、更にはフードロスといった社会課題の解決など、幅広くその可能性を探索しています。キッチンの機能とオフィスへの設置難易度のトレードオフについても、更なる研究が必要ですね。


馬場 ー オフィスキッチンのデザインや機能についても、もっと沢山の事例を集め検証する必要があります。機能が多過ぎても少な過ぎてもいけない。給排水配管はどうするかなど、技術的な点も含めて、LIXILやKOKUYOと共同研究できたら面白いと思います。


馬場正尊
1968年佐賀県生まれ。オープン・エー代表取締役、建築家。建築設計を基軸に、「東京R不動産」、ウェブサイト「REWORK」、シェアオフィス「Under Construction/Un.C.」の運営など、メディアや不動産を横断して活動している。

若原強
1976年北海道生まれ。コクヨワークスタイル研究所所長。東京大学大学院修了後、Sler、コンサルティングファームを経て2011年コクヨ入社。新しい働き方の研究・発信に従事する一方、複業にて個人コンサルタントとしても活動中。

石原雄太
1973年東京都生まれ。日本大学卒業後、住宅メーカー入社。後、インテリアメーカーを経て、2005年にLIXIL(当時INAX)入社。現スペースプランニング部所属。マンションやホテルの水まわり、パブリックトイレの空間提案に従事。

株式会社LIXIL お客さま相談センター

  • 営業時間 月〜金 9:00〜18:00 土日祝 9:00〜17:00
  • 定休日 GW、年末年始、夏期休暇
  • TEL. 0120-179-400
  • URL. www.lixil.co.jp

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