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「商店建築」セミナー2017 in 大阪「マテリアルから発想する、商業空間のオリジナリティー」開催

2017.12.28 | REPORT

2017年11月17日、大阪のスタンダードブックストア心斎橋で、商店建築セミナー「マテリアルから発想する、商業空間のオリジナリティー」が開催された。登壇したのは、空間デザイナーの松浦竜太郎氏(乃村工藝社)と中村圭佑氏(ダイケイミルズ)。商店建築・編集長の塩田健一を聞き手として、様々な店舗において、独自性のあるマテリアルづかいを見せる両者に、商業空間とマテリアルの関わり、発想のプロセスなどが開陳された。



左、塩田健一(商店建築編集長)。中央、中村圭佑氏(ダイケイミルズ)。右、松浦竜太郎氏(乃村工藝社)
左、塩田健一(商店建築編集長)。中央、中村圭佑氏(ダイケイミルズ)。右、松浦竜太郎氏(乃村工藝社)


セミナーの冒頭、塩田編集長は、「一見カジュアルなお店であっても、マテリアルへのこだわり、ディテールのつくり込みへの情熱が、高級感や上質さ、豊かさを表現しているシーンを目にする機会があり、今回のテーマを設定した」と話す。そして、マテリアルから豊かな空間をつくっているデザイナーとして両者に依頼をしたという。



まずは松浦さんが手掛けたプロジェクトを紹介。



・照明メーカー「コイズミ照明」のショールーム
自然光と照明器具の人工光の本質的な美しさを見せるマテリアルとして、光の層や膜をイメージしたファブリックを用いた空間を紹介。重なりや透け感、光との反応で美しさを見せる素材をテキスタイルコーディネーターの安東陽子氏と共に選定した。



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・靴店「Luccallena」
松浦さんがストックしていたメッシュ素材のサンプルを触りながら考えていったという空間。メッシュ状のスチールを半筒状に曲げて自立する状態とし、商品ディスプレイの一部として使用。メッシュの任意の場所にフックを掛けることができる機能性も持たせた。



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「素材に触れながら、空間の発想が生まれてくることもある。気に入ったマテリアルをストックしていくと、いつも膨大な量になってしまうのは難点ですが」(松浦さん)



・レストラン「View & Dining Cotociel」
ホテルグランヴィア京都の最上階に位置するレストランにおいて、京都のエッセンスを楽しむ舞台として空間を提案。西陣織「細尾」と協働した複雑かつ立体的な織物の他、市松模様のような金のグラフィックを施した天井が展開。松浦さんは、素材やアートワークを職人やアーティストに依頼する場合、空間のコンセプトと場所のスケール感を伝えて、あまり細かい指示はしないという。



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・ダイニングバー「aiju」
リーガロイヤルホテル沖縄のダイニングバーとして、沖縄の特徴を形象化しながらも、沖縄らしい素材を使わず表現することが求められた。太陽を表現したダイニングでは、ガラスで金属メッシュを挟み込んだパーティションを制作。バーではクローム材を用いたオブジェで森の陰影を表現した。その他、「阪急メンズ東京」の様々な素材で透過性を表現した空間、現在進行中の「福岡空港の商業エリア」でのローカルマテリアルを意識したシラスの左官仕上げなどが紹介された。



「個店や専門店は、ターゲットがある程度はっきりしているので、コンセプトに合わせて素材をある程度自由に選ぶことができる。一方、大型商業施設や公共性のある空間では、多くの人々が来ることを想定した素材選びが必要で、多くの人が共感できたり、親しんでいる素材を用いながら、独自性を出していくことが大事。いずれにしても、私の場合はコンセプトの濃度を深めるためにマテリアルにこだわっていると言えます」(松浦さん)




続いて、中村さんが携わったプロジェクトを解説していく。



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・ジュエリーショップ「Hirotaka」
自然や昆虫からインスピレーションを受けて製作されるジュエリーに合わせて、その昆虫たちが佇む自然の中をイメージした空間構成。その中で、特に目を引くのが昆虫の体を表現したうろこ状の真鍮仕上げ。中村さんが自分で真鍮板を曲げて職人に制作を依頼したという。



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・ブティック「6(ROKU)BEAUTY&YOUTH」
お店のキーカラーを赤土に混ぜたコンクリートで表現し、「日本ぽくしたい」というオーナーからの要望を黒皮スチールのルーバーで演出している。



「デザインをする時は、常に自分の幼少期の原風景を咀嚼して、現代的な手法で落とし込むということをしています。それしかできないとも言える。そうでないと自分の身の丈に合ったデザインができないのです。そのため、この2つの事例のように、無意識のうちに自然や外のような雰囲気になっていることが多い」(中村さん)



・レストラン「ザ・プレミアム・モルツ タップバー/レストラン 阿蘇」
ビール工場に併設されたレストラン。ビールをつくるのに大事な阿蘇の水を、純度高くそのまま用いている工程からインスピレーションを得て、熊本の地元の職人だけに制作を依頼。阿蘇山の土を混ぜ込んだコンクリートでカウンターを制作。大地がそのまま隆起したような形状にし、コンクリートを打っているように見えない左官的な仕上げとしている。



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・鎚起銅器店「玉川堂銀座店」
一つずつ手で打ってつくる銅器の店舗。同社の職人が一枚一枚鎚目を打った銅板で空間全体を覆った。一枚の銅板を叩いて曲げて作っていくという「鎚起」という伝統技術を空間そのもので表現している。銅の素地は指紋が付きやすく、未加工だと錆びやすいが、鎚起することで酸化しにくくなるという特性も活かされている。



「松浦さんとは反対に、私はサンプルをほとんどストックしていません。既製品はほぼ使わず、プロジェクトごとにマテリアルをつくることを意識しています。建築やインテリア出身ではなく、美術を学んでそのまま独立して空間の仕事を始めたので、既製品を使うという発想が初めからなかったのも影響しています。もちろんコストは上がるため、自分が表現したいものをつくるために、他の部分はなくなってもいいくらいの気持ちで、コストコントロールしています」(中村さん)



それぞれの事例とマテリアルづかいを見た塩田編集長から、
「松浦さんは光とファブリックの関係や、コンセプトと使用する素材の関係など、空間的な要素とのかかわりを意識したマテリアルづかいであるのに対して、中村さんは素材自体を加工したり、ソリッドな使い方をしたり、生々しい使い方に見える。互いのマテリアルの用い方に感じることはありますか」という質問が挙がると、



「松浦さんがフレンチだとすると、私は寿司かもしれません。フレンチは見た目にも美しく、だけど味も美味しくないと成立しない。松浦さんのつくる空間はその要素が両立するバランスがすばらしいのだと思います。一方で私は、その素材の旬を生かして、素材そのもののをどう味あわせるかということに注力しているイメージです」(中村さん)



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最後に、塩田編集長からの「何の制限もなく自由にマテリアルを使うことができるとしたら、どんな空間をつくりたいか」という質問に両者が答える。



「ライフワークとしてやっていることで、マテリアルをゼロからつくる研究をしている。1から10ではなく、ゼロから。例えば蚕から絹ができて布ができるように、人間があまり手を加えずに自然の流れのなかで生まれる素材について研究を進めています。さわりだけ言うと、地震や火災といった自然災害で生まれる瓦礫や燃えカスを元にしたようなマテリアルを、空間づくりに取り入れられないかと模索していて、近い将来にお見せできるかもしれません」(中村さん)



「真っ先に浮かんだのは、それ自体が仕上げでもあり、構造でもあり、外でも内でも使えるようなマテリアルがあるといいなと思う。樹脂のような素材で光の受け方で見え方が変わったりするようなものです。最近、建築のプロジェクトも増えていて、外壁とか構造とか内装仕上げなど関係なく使える素材があると、自然的で気持ち良い空間がつくれるかもしれないと想像します」(松浦さん)



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いずれもマテリアルと向き合うことで、自然的な部分にイメージが近づいていくのは興味深い。会場には、設計関係者やメーカー、学生なども訪れ、方向性は違えど、両者の言葉に滲むマテリアルと空間に対する真摯な姿勢に聞き入っていた。




◆掲載号情報
2014年5月号 「コイズミ照明ショールーム」
2017年8月号 「View & Dining Cotociel」 
2012年9月号 「aiju」
2017年3月号 「Hirotaka」
2015年11月号 「ザ・プレミアム・モルツタップバー/レストラン 阿蘇」



※月刊『商店建築』で紹介された掲載作品は、オフィシャルサイト内の【掲載作品ライブラリー】にて、業種・特集、都道府県別、フリーワード(設計者名・物件名など)から、簡単に探すことができます。
http://www.shotenkenchiku.com/products/library.php

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