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“ここでしか聴けない音”を実現した「G.Itoya」のサウンドデザイン

2016.06.20 | INTERVIEW

音響設計のプロフェッショナルから選ばれるヤマハの商業空間向けサウンドシステム。同製品が導入された、伊東屋の新たな旗艦店「G.Itoya」のサウンドデザインについて、店づくりを主導した銀座・伊東屋、総支配人の柴田泰秀氏と、音響設計を手掛けた、マスターマインドプロダクション(以下MMP)代表の小川弘氏に話を聞いた。

目指したのは “過ごせる”店を実現する音環境

銀座の地で100年以上の歴史をもつ文房具店、伊東屋の本店ビルが、2015年6月16日に「G.Itoya」としてリニューアルオープンした。1階から8階までの売り場を、「SENSE」、「SHARE」、「DESK」、「MEETING」、「TRAVEL」、「HOME」、「FINE PAPER」、「CRAFT」と、フロアごとにコンセプトを分け、“モノを買う”店から“過ごせる”店へと生まれ変わった。

「G.Itoya」では、新店舗における新たな試みとして、音にこだわった店づくりがなされている。同店総支配人の柴田泰秀氏は経緯についてこう語る。

柴田 ー 今まで、いくつかの店舗をつくってきましたが、音響やBGMに関してはどうしても後付けになりがちでした。ですが、弊社代表から受けたミッションは、フロアごとのシーンを大事にしていきたい。そして、そのシーンに合った音を取り入れたい、というものでした。そのため、今回、音の環境設計は内装設計に入る段階からスタートしています。MMPの小川さんとは設計者からの紹介で出会い、初めての打ち合わせのときに伊東屋のイメージを音にして持ってきてくださいました。私達にとっては音づくりを依頼するのは初めてのことでしたが、話を聞くうちに、ここにならお任せできると思い依頼しました。

フロアBGMは、1階から8階にかけては「Sense」「Creative」、「Papiearium」などと、売り場のシーンが変化するごとに変えられている。MMP代表の小川弘氏は、そのすべてが「G.Itoya」のオリジナルなのだと言う。

柴田 ー “過ごせる”店という大きなコンセプト、そしてフロアごとのコンセプトも明確でした。まずは、そのコンセプトに、どう音を寄り添わせるかを考えました。単純にかっこいい選曲をするのは簡単ですが、既存の曲だとどこかで無理が生じてしまう。ですから「G.Itoya」ならではのサウンドトラックをつくることにしました。曲づくりのテーマは、“買い物客の後ろに何となくいつもある”です。鳥の鳴き声など季節に応じた自然音の他、ホチキス、シャープペン、紙を丸めた音など、商材である文房具を使った音も録音して曲の一部に取り入れながらリズムを奏で、メロディを乗せています。そして、サウンドロゴの最後は伊藤明社長が紙にペンでサインする音で締めくくっています。ここで鳴っている音は「G.Itoya」オリジナルの音で、ここでしか聴けないんです。

開店直前には従業員が“さあ準備”と感じる音をつくり、1階のメインエントランスでは、開店時にドアが開くタイミングで専用の音を流すなど、きめ細かくシーンが用意されている。

柴田 ー 階を移動する時に気付く人がいるかもしれませんが、音のシーンの変わり目には、特に力を入れています。ちょっとだけ楽器を足したり、引いたりするなど、ガラッと印象を変えるのではなく、ふとした瞬間に気付く程度の変化を心掛けてつくり込んでいきました。強く主張する音ではなく、心にそっと訴えかけるくらいがちょうど良いのではと思っています。

「TRAVEL」をテーマにした5階のワークスペース

7階の「竹尾見本帖 at Itoya」フロア。フロアコンセプトに合わせ「papiearium」と名付けられた音が流れる

空間と客に寄り添うヤマハのスピーカー

各フロアには、ヤマハのサーフェスマウントスピーカー「VXS5」が8台導入され、そのうちの4台を自然音出力用、もう半分の4台をBGM出力用とし、それぞれがジグザグに配置されている。また、1階のみ2台のサブウーファー「VXS10ST」を天井から吊るしている。さらに12階のCAFEや各階のトイレには、シーリングスピーカー「VXC4」が採用されている。

小川氏は、今回のプロジェクトにはヤマハのスピーカーが最適だったと語る。

小川 ー これまで、さまざまなメーカーを聞き比べてきましたが、ヤマハの商業店舗用のスピーカーには良い意味で癖がないという印象を持っています。最近、低音がふくよかなら良いという安直な発想で生み出された商品があまりにも多いように感じます。ヤマハ製品には、そういった過剰な演出はありません。とはいえ、スペックは十分で、基本的な音をきっちりと再生してくれ、レコーディング時のリファレンスとして広く使われているヤマハの「NS-10M」というモニタースピーカーに近い音がする。だから、意図通りの音づくりができ、音を空間に寄り添わせ、お客さんに自然にくつろいでもらうという意味ではぴったりでした。また、1階は天井が高いので、通常は置かないであろう天井にサブウーファーを設置したことで、ここまで上質な音環境を構築することができたと思っています。

来店客からの反応は好評で、中には「店内BGMのCDが欲しい」や「誰が作曲した曲ですか?」などといった声も寄せられているという。「G.Itoya」が音づくりに積極的に取り組み、BGMをインテリアを構成する重要なファクターとしてとらえたからこそ、得ることができた評価だと言えるだろう。

各階に設置されたサーフェスマウントスピーカー「VXS5」

1階の天井に2台設置されたサブウーファー「VXS10ST」

柴田泰秀
銀座・伊東屋

小川弘
マスターマインドプロダクション

ヤマハ プロオーディオ・インフォメーションセンター

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