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小規模店舗のトイレデザインについて考える

2017.11.05 | INTERVIEW

昨年4月、東京・自由が丘にオープンした「also Soup Stock Tokyo(オルソ スープストックトーキョー)」。スープだけでなく、お酒やコース料理も楽しめる「Soup Stock Tokyo」の新業態である。外壁の2面をガラス張りとした開放的な店内の1階には、唯一クローズドな空間となるトイレを設置している。同店を手掛けたクリエイティブディレクターの野崎亙さん(スマイルズ)と設計者の永山祐子さん(永山祐子建築設計)に、空間全体とトイレの関係性や、小規模店舗におけるトイレの在り方、トイレが持つ今後の可能性について聞いた。

街が持つ特徴を店内に受け入れる

編集部 ー トイレについての話をお伺いする前に、まず「also Soup Stock Tokyo」ができるまでのストーリーをお聞かせください。


野崎 ー 東急・自由が丘駅の構内にある「Soup Stock Tokyo」を通して、街との親和性を感じており、路面店をオープンした際にもお客様に来ていただけるという自負はありました。ただ、出店にあたって、紋切り型の店をつくることに意味があるのかという自問がありました。自由が丘という街の佇まいや在り様に、店が寄り添うことが求められているように感じたのです。
「Soup Stock Tokyo」は女性のお客様から多くの支持をいただき、お一人でも、ほんの短い時間でも、ゆったりと過ごしていただいています。改めて、休日に訪れたり、誰かと一緒にお酒と食事を楽しんでいただけるような店をつくりたいと考えたのが、「also Soup Stock Tokyo」のプロジェクトのスタートでした。
建築から手掛けるにあたって、主張が強かったり、威圧感があるような仰々しい建物はつくりたくありませんでした。建物自体が人々の営みの脇役になり、人が入ることによって存在感が生まれる。絵の額縁のような店にしたかった。店が街に開けているというよりは、限りなく街が店内に侵食してくるようなイメージがありました。
永山さんとの最初の打ち合わせでは、朝の通勤で店前を急ぐ人々がスープを仕込む匂いを感じながら去っていく、テラスでママ友達が集まって運動会の上映会をやっているなど、ひたすら店と人とが関わるシーンの話だけをしました。


永山 ー 運営コンセプトについて、こんな風に説明を受けたのは初めてでした(笑)。立地は、自由が丘の通りの面白さが敷地内に連続しているような角地になります。ここに3層の路面店をつくるという条件が決まっていました。内部空間を通りの延長として捉えると共に、上階まのが良いだろうと、野崎さんとのやりとりの中で直感しました。1階の開口部は4連のガラスの引き戸で構成し、開放すると道路とフラットにつながります。また、2層分の高さでスキップフロアを構成することで、どこに座っても上階と下階、そして街を眺められるようにしました。全ての席がそれぞれ良いと感じてもらえることを意図しています。


路地が立体的に続いていくような構成を意図したスキップフロアを見下ろす
路地が立体的に続いていくような構成を意図したスキップフロアを見下ろす


外観。1階客席のガラスの引き戸は全面開放ができ、東京・自由が丘の通りのイメージを店内に引きこむ
外観。1階客席のガラスの引き戸は全面開放ができ、東京・自由が丘の通りのイメージを店内に引きこむ

開放的な店内で閉鎖的な空間となる

編集部 ー 「also Soup Stock Tokyo」のトイレは、1階のデシャップカウンターの脇にありますね。


野崎 ー トイレや厨房などの水回りは、給排水設備の関係もあり、計画の初期段階から考察を始めました。店内を吹き抜けにしたことで、席数の確保が難しく、トイレの設計にもかなり苦労したのを覚えています。設置箇所は1階なのか2階なのか、個室は一つなのか二つなのか、計画の途中で何度も検討を重ねました。飲食店は、トイレの印象が悪いとすべてが「終わり」になってしまうという感覚を持っています。清潔感を含めて、お客様が納得できるものでなくてはならないのです。


永山 ー 打ち合わせでは、トイレに関することに最も多くの時間を割いたように思います。これだけオープンな空間の中で、トイレだけがクローズドになる。それをどう処理するのかが、大きな課題になりました。最終的には、多少分かりづらいですが、外から目隠しになる場所であることから、1階の階段下のレジと厨房の間に設置することに決まりました。店内にトイレ然としたものがあるのも嫌だったので、家具を設置するように、「箱」を入れ込んでいます。またサインは、アーティストの阿部亮太郎さんに大理石を削り出した作品をつくってもらいました。湾曲した“restroom”の文字は、ぱっと見ただけではサインとは思わないでしょうが、トイレに行きたいと感じた人には、しっかりと認識してもらうことができます。ちなみにトイレは、厨房のスペースに少し食い込んだように配置していますが、それにより、お客様から洗い場の存在を隠すことにもつながっています。


野崎 ー お子様や犬を連れていらっしゃるお客様も少なくありません。そういった方々にも寄り添った店づくりをしたいという思いもあり、階段を上がる必要のない1階のこのスペースは、ベストポジションだったと思っています。


デシャップカウンターの脇につくられたトイレ。誰でも利用できるよう、1階のこの場所につくられた
デシャップカウンターの脇につくられたトイレ。誰でも利用できるよう、1階のこの場所につくられた


トイレのサインは、アーティストの阿部亮太郎氏が大理石を削り出した作品「a dainty place」
トイレのサインは、アーティストの阿部亮太郎氏が大理石を削り出した作品「a dainty place」

「個室」ではなく、「部屋」をつくる

編集部 ー トイレの内部について、詳しく教えて下さい。


永山 ー あまり広くはないスペースなので、便器はコンパクトでありながら、きちんとした性能も持ち合わせているLIXILのシャワートイレ一体型「サティスSタイプ」を選びました。タンクレスで省スペース、形状もシンプルですし、便器洗浄もパワフル。除菌や脱臭機能も付いています。特に今回のような小規模飲食店では、匂いの問題は不可欠ですね。


野崎 ー 当初より、匂いや音などトイレのリアリティーを極力感じさせないようにしたいという思いが強くありました。またトイレは、不特定多数の方が利用する空間です。飲食店である以上、感染症対策として、便器に手を触れなくて済むよう、便フタの自動開閉タイプを選びました。


永山 ー 内装については、野崎さんと「店内には余計な色がないので、トイレの中に驚きがある色を取り入れたいですね」という話をしていました。当初は、感覚的に赤やピンクが良いのではと感じていましたが、今回は店舗で提供する「ワイン」をイメージカラーに壁面を仕上げました。


野崎 ー 「Soup Stock Tokyo」では、スープに色があるので、内装に余計な色を使いません。この店も、トイレ以外は白と木、緑、ステンレスの色だけで構成しています。その上で、色を使うには意味を考えなくてはと、後付けで赤ワインのレッドとしました(笑)。ですが、結果的には高揚感があり、艶っぽさもある。アルコール類も提供するので、違和感のない色に仕上がったと思います。


永山 ー トイレ空間をただの「個室」ではなく、「部屋」のように感じさせることで、よりリラックスした空間にすることができます。奥行きを足し、入り口から便器までの距離をとることで、人々の心にゆとりをもたらすことにつながるのです。出入りが楽になると、小さなお子さんと一緒に入ることもできるようになります。また幅も、壁面の断熱材のスペースを掘り込んで、少しでも広くする工夫をしています。150�程広がったことで、カウンターを設けることができました。小さなカウンターでもポーチを置けるなど、特に女性には喜ばれます。カウンターの下部には、扉付きの収納棚を設け、トイレ用品をストックしています。また天井は、外光が入るよう、アクリル板を張りました。


ワインレッドをベースカラーにしたトイレの内部。左側壁面は、断熱材のスペースを掘り込むことで、幅15cmのカウンターを設置する空間を生み出している
ワインレッドをベースカラーにしたトイレの内部。左側壁面は、断熱材のスペースを掘り込むことで、幅15cmのカウンターを設置する空間を生み出している

コミュニケーションの場として活用する

編集部 ー 「also Soup Stock Tokyo」に限らず、小規模店舗を手掛けるにあたって、トイレについてどのような考えをお持ちですか。


永山 ー 限られた条件の中で、なるべく多くの人に優しいトイレ空間をつくることを普段から心掛けています。小規模店舗では、トイレを1カ所しか設置できないケースがほとんどです。そこでまず、スペースを確保することが、大きな課題になるでしょう。車椅子でも利用できる大きなトイレを設置することは、現実問題として難しいように思いますが、なるべく空間を広くとったり、立ち座りの際に手を付けるカウンターを設けたりといった工夫は必要だと感じています。また、空間内でトイレに関する全てが完結していなければならないので、いかに多くの機能を持たせられるかを考えます。特に飲食店の場合、大きな荷物を持っている人もいますし、女性は化粧直しもします。


野崎 ー 段差や扉の開き具合など、トイレの在り様によっては、入店をためらうお客様が出てきてしまうことにもなりかねません。経営側としては死活問題に直結するので、トイレは重要ですね。
逆に、小さいからこそ表現できることもあります。別の店の話になりますが、中目黒にオープンしたレストラン「パビリオン」(17年2月号)のトイレは、白く四角い内部空間に街灯が突出するアートギャラリーにもなっています。そこにポップやフライヤー、店からのメッセージを書いたメモなども貼っています。このトイレは、プライベート空間であるだけでなく、私達がやろうとしていることをお客様へと伝えるコミュニケーションの場にもなっているのです。
私にとってトイレとは、店舗空間における一つのコスモ(小宇宙)だと思っています(笑)。魅力的なトイレがあれば、それだけでもその店のファンになってもらえるかもしれません。「Soup Stock Tokyo」のブランドとして思い切ったことをやったのは「also Soup Stock Tokyo」が初めてになりますが、今後も路面店出店の際にはトイレに力を入れていくつもりです。

トイレに新たな概念を持ってデザインする

編集部 ー 最後に、これからのトイレ空間に求められることや、トイレ空間が持つ可能性について考えをお聞かせください。


永山 ー これは特にオフィスで言えることですが、健康を保つウェルネス空間としてトイレを捉えることができます。気持ちの切り替えやリフレッシュする空間であったり、鏡に映った顔色で健康管理するなど、メンタル的にもフィジカル的にも、より自分と向き合える場所になれると思います。


野崎 ー 今までのトイレは単なるファシリティーだったので、さまざまな可能性がありそうな気がします。ロンドンにあるレストラン「スケッチ」の2階には、何もない床にFRP製のタマゴがいくつも置いてある。そのタマゴの内部はすべてトイレで、男女に分かれておらず、ただ個室があるだけです。トイレに対するナイーブな問題をクリアすると共に、エンターテインメントへと昇華させた事例と言えるでしょう。今後、飲食店を含めた商業施設では、何かを食べたり、何かを購入するだけでなく、そこでの“体験”が重要になってきます。意匠的な演出だけでなく、例えば商業施設のフロアの中心にトイレを設置するなど、発想を逆転した時に、もっと楽しい状況が生まれるのではと思っています。

野崎亙(のざき・わたる)
クリエイティブディレクター。1976年生まれ。イデー、アクシスを経て、スマイルズに入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブを統括している。主な仕事に、「Soup Stock Tokyo 中目黒店」(17年4月号)や「PAVILION」(17年2月号)のデザイン監修など

永山祐子(ながやま・ゆうこ)
建築家。1975年生まれ。青木淳建築計画事務所を経て、永山祐子建築設計を設立。住宅設計のほか、ブティック、カフェ、ホテル、商業ビルなど幅広く設計を手掛ける。主な仕事に、「西武渋谷店A・B館5階」(15年12月号)、「Henri Charpentier 芦屋本店」(15年3月号)など

株式会社LIXIL

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