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ECOMICA × 光洋産業

2017.07.18 | REPORT

メーカーの努力により開発された新しいマテリアルは、デザイナーの独創的なアイデアを伴って、これまで見られなかったような仕上げを可能にする。この連載では、最近開発された建材や質感、表情に特徴のあるマテリアルを紹介。その活用法や使用上の注意を探っていく。

接着技術の開発が広げるボードの新たな可能性

合板の原料として、木材と同様に重要なのが、接着材である。約40年前に非ホルムアルデヒド系接着剤を発明した光洋産業では、接着技術を活用して、高粱などの草や果樹の剪定枝を原料とするボード「ECOMICA(エコミカ)」シリーズを展開している。同社の夜光道夫さんと谷口千明さんに話を聞いた。


圧縮した茎の表情を見せる高こうりゃん粱板「ECOMICA」シリーズの一つである「高粱板」は、約2mと背が高く固いという特長を持つ一年草の茎をスライスして圧縮し、接着剤で固めて製作したボードである。多様な木質ボードが流通する中で、草本類を原料とするこの非木材系ボードは、非常に珍しい存在と言えるだろう。


高粱は、蒸留酒である白酒の原料として中国の東北部で生産されており、痩せた土地でも育つ生命力の強い植物だ。「実の部分のみが白酒の原料として使用され、茎の部分は家畜の飼料となる程度で、大した用途がなかったことに目を付けました」と夜光さんは語る。開発にあたっては、高粱の茎の表皮にあるパラフィンによる接着の阻害が問題になったが、接着剤を改質することで商品化に成功したという。


発売当初は、合板やパーティクルボードに代わる下地材として展開する予定だったが、独特のテクスチャーが東洋的なイメージを想起させる「アジア柄」としてアメリカで評価され、高級ホテルや飲食店の床、壁、天井、カウンターの天板などで多用されたこともあり、仕上げ材として展開している。


染色とクリア塗装を施した高粱板。東洋を想起させる柄として、アメリカで好評を得たという
染色とクリア塗装を施した高粱板。東洋を想起させる柄として、アメリカで好評を得たという


床やカウンターの腰に高粱板が使用されたオフィスのレセプション
床やカウンターの腰に高粱板が使用されたオフィスのレセプション


この表情の面白さは、原材料の特徴に加え、製造法によるところもある。高粱板は3層構造になっており、中心層を挟むように表面層を貼り付けている。中心層は高粱の茎を何層にも敷き並べて接着剤を噴霧し、プレスして固めたもの。表面層はその中心層を積層方向に5㎜厚にスライスしたもので、中心層の小口が表面に現れる。これが高粱板独自の見え方となる。


サイズは、1820×910㎜が基本的で、厚みは10、20、30㎜の3種類となる。強度は、木質ボードと遜色なく、耐水性や釘の保持力では劣るものの、たわみや反りに関しては有利だという。

高粱板に代わるひまわり板

現在、同社では、高粱板の原材料の転換を計画中だ。「中国の農家がより生産性が良く収入を見込める作物の生産に転換したことに加え、不作の年もあるため、高粱の安定購買が難しくなったのです」と谷口さんは説明する。


そこで新たに目を付けたのが、ひまわりだ。高粱と同様に、茎の使い道があまりない一年草である。そして、生育エリアが広く、出来・不出来の影響も受けにくい。キク科の植物なので、虫が寄りにくいという利点もある。「ひまわり板」は、繊維の流れ方など見た目の印象が高粱板とよく似ている。同社では、2017年から高粱板をひまわり板の製造に順次切り替えていく予定だ。設計価格は、10㎜厚のもので1万円となる。


このひまわり板も、高粱板と同様に仕上げ材を想定しており、強度を担保するために下地を別途設け、接着剤で貼るのが基本となる。そして、仕上げのポイントになるのが塗装である。塗料が表面に染み込むと濃淡が強調されて柄が浮き上がるため、繊維のパターンを生かすことができる。なお、大理石や皮革を連想させる柄なので、着色する際にはそれらの色調も参考になるだろう。そうした意味では、素材の質感を生かすよりも、艶を強調して高級感を付与するのも面白い。塗装にあたっては、木質ボードと同様に、サンディング後にシーラーを塗布して吸い込み止めを行うことが必須なことに注意したい。

オリジナルボードの可能性

同社では、非木材系ボード以外にも、さまざまなボードを製作している。中でも注目したいのは、果樹園の剪定枝を用いたボードだ。現在は試作段階で、梨の枝を使用しているが、他の樹木の枝でも作成可能である。枝は、それぞれが異なる曲がり方をしているので、ボードにする際にすき間ができる。そのすき間に独自塗料を埋めることで、独特の表情が生まれるというものだ。


梨の剪定枝を使用したボード。剪定枝が、1枚の紙を挟み込む形で圧縮および接着されている
梨の剪定枝を使用したボード。剪定枝が、1枚の紙を挟み込む形で圧縮および接着されている


この材料の活用方法としては、セメントテラゾーがヒントになる。セメントテラゾーは種石の種類とセメントの色の組み合わせで、狙った表情をつくるが、この材料の場合、着色した剪定枝の色とパテの色との組み合わせで、見たことがないような独自のパターンをつくることが可能となる。


またこの材料は、国内で生産しており、小ロットでのオーダーメードも対応可能だ。例えば、プロジェクトと縁のある地域の剪定枝で特注製作すれば、使用した空間は地域との関連性を強調することにつながり、ブランディングと連動させやすくなるだろう。


さまざまな樹木の枝をボードにすることが可能だという。また、埋め込む塗料の色も指定することもできる
さまざまな樹木の枝をボードにすることが可能だという。また、埋め込む塗料の色も指定することもできる


このボードは現在、設計価格は1820×910㎜サイズで1万円からを想定している。他にはない発想でつくられたこれらのボードを、独自の手法で試してみてはどうだろうか。

text:大菅 力 photo:千葉正人

光洋産業

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